著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

セッションが減って「語りがいのある要素」が失われていった

公開日: 更新日:

『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』(1968年11月22日発売)⑥

1曲目(無料)から読む

■『オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ』

 ジョンが『レボリューション1』『レボリューション9』で「一か八か」ではなく「1か9か」の攻めた曲を作ったのに対し、ポールは、まさにバランスを取るかのように、イノセントなポップソングを聴かせる。

 私が初めて聴いたビートルズソングである。

 小学校時代、確かNHK『みんなのうた』で、フォーリーブスによる日本語カバーを聴いたのだ。

 いい曲だとは思ったものの、同時期に聴いたカーペンターズ『シング』(1973年)をより気に入り「『シング』の方が上やな」と思っていた。さすが、のちに評論家になる小学生である。


 楽しい曲。これに尽きる。また「ンチャッ・ンチャッ」というスカのリズムが、その楽しさに拍車をかける。

 ただこの曲、完成版よりも、完成版に至る試行錯誤の中で残された別バージョンがあって、それもいい、いや、それの方がいいのだ。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』(96年)に収録されている「テイク5」を、ぜひ聴いていただきたい。よりグルーヴィで楽しい。これを聴けば、小学生時代の私もこういうのではないか──「『シング』と同じくらいやな」。


■『マーサ・マイ・ディア』

 こちらもポールによる実にイノセントなポップソング。何といっても「マーサ」はポールの愛犬なのだから。LPのB面トップを飾る曲である。

 まずは、ホーンやストリングスが目いっぱい、それもいい音で入っていることに注目していただきたい。これぞ8トラック録音の恩恵である。

 犬がヨチヨチと歩くようなチャーミングなピアノのイントロもポールによる演奏だ。若い頃にコピーしたが、なかなかに難しかった。ロックンロールから始まって、このイントロまでたどり着いた。ポールがいよいよ「総合音楽家」になってきたことが分かる。


 ただ、「で、それで?」と言いたくなる。このアルバムに収録されたポールの他の曲もそうなのだが、「よく出来たポップソングだ。以上」という感じで、これまでのビートルズ作品が持っていた「いろんな角度からいろいろと語りたくなる要素」に決定的に乏しいのだ。

 8トラック録音によってセッションが減り、個人作業が増えたことで、メンバー同士の相互作用が生んでいた「語りがいのある要素」が失われていったのだと思う。機材の進化も痛しかゆしといったところか。

■「日本の新しい音楽1975~ "New Music" from 1975」発売!
 スージー鈴木氏の大好評連載が書籍化されました!Amazonでも好評発売中です!

■好評連載「沢田研二の音楽1980-1985」をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)発売中!

【連載】スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  2. 2

    黒川紀章設計「戦没者慰霊塔」も丹下健三設計「香川県立体育館」も解体…財政難で維持できなくなった名建築

  3. 3

    石原プロ「炊き出しの流儀」 被災地一番乗りがエラいわけではない

  4. 4

    支持率急落の高市政権がV字回復画策 内閣改造でクビ切り不可避な“ポンコツ”5大臣の名前

  5. 5

    「VIVANT」1強ムードの陰で…蒼井優「Tシャツが乾くまで」が呼び覚ます"連ドラ本来の快感"

  1. 6

    横浜流星「BL作品興味なし」発言に滲むプロ意識 「べらぼう」後初の民放連ドラ主演で注目

  2. 7

    2026夏の甲子園「優勝校はココだ!」 本紙と専門家が徹底予想、“対抗”含む5校を紹介

  3. 8

    有名アナウンサーの現地取材や、報道ヘリコプターによる空撮に賛否がありますが、震災中継のあり方をどう思いますか?

  4. 9

    毒ヘビに噛まれた妻を救った夫の機転が米国で話題

  5. 10

    「愛子天皇」潰しは賛成で、消費税減税はなぜ反対? 玉木国民民主の「公約違反」がネットで袋叩き