人生の転換のときを学ぶ最新評伝本特集

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「仁義なき戦い 菅原文太伝」松田美智子著

 鮮烈な生き方をした人の人生には、転機を呼び起こす「決断」がある。この人たちは、どこで、どんな決断をしたのだろうか。最新刊の傑作評伝5冊から「決断のとき」を読み取ろう。



 菅原文太は宮城県の築館中学時代、久米正雄の「地蔵経由来」という芝居をやって演技を褒められ、「将来、おれ、文太座をつくる」と言った。演じることへのてらいがなく、むしろ楽しんでいたのだろう。25歳の時、新東宝にスカウトされて俳優になった。その後、松竹に移籍したが脇役ばかりで腐っていた。3年目に、木下恵介監督が、文太のギラギラした目にインパクトを感じて、バイオレンス映画「死闘の伝説」に配役。その後、「血と掟」で共演したインテリヤクザの安藤昇とともに東映に移る。大物プロデューサー、俊藤浩滋に請われ、五社協定を無視しての移籍だった。

「兄弟仁義 逆縁の盃」を作っていた鈴木則文監督は、代貸役を探していた時、文太が撮影所を歩く姿を見て、胸がざわめいた。孤独と反抗の影を引きずっている……。 

 何人もの監督に惚れられ、スクリーンで活躍したスターの生涯。

(新潮社 1870円)

「シャルル・ドゴール」ミシェル・ヴィノック著 大嶋厚訳

 フランス陸軍の軍人だったドゴール将軍は、戦争で分裂したフランスの再統一を実現し、ドイツに占領された地域の一部を取り戻し、国連安全保障理事会の常任理事国の地位を獲得し、共和政フランスを再興した強力な指導者だった。

 だがドゴールは、共和政は分裂を招く体制だと確信していた。ヒトラーの台頭に対しても、第三共和政は驚くほど脆弱だった。「政党」は互いに対立して、国家が「頭」を持ち、国民がリーダーを仰いで、フランスが最高の地位を占めることを阻害すると考え、ドゴールは「政党」を嫌悪していたのだ。ドゴールは「結集(ラサンブルマン)」をキーワードとして掲げ、「政党を超えたところで、全国民から直接負託を受けた指導者に由来する」ことが必要だと考えた。

 対独戦の敗北や、アルジェリア戦争による植民地支配の終焉などの危機を乗り越え、フランスを再興した大統領の実像に迫る一冊。

(作品社 2420円)

「南島に輝く女王 三輪ヒデ」倉沢愛子著

 著者はジャカルタの国立文書館で、白系ロシア人、ニコライ・グラーヴェ宛ての手紙にふと目を留めた。それが三輪ヒデという女性の人生との出合いのきっかけだった。

 ヒデは明治35年、松前藩士の三女として函館に生まれた。失恋して、トラピスチヌ修道院に入ろうかと思っていた頃、函館に来ていた亡命貴族のニコライに求婚された。父親は断るだろうと思っていたのに、ヒデはなぜか受諾して結婚する。やがて夫婦は2人の子を連れて当時、オランダの植民地だったジャワ島に渡ることを決意。バンドゥン近郊の雑木林を切り開いて、農園を開く。水源も遠く、食材を買うためにバンドゥンまでハイヤーで行かねばならないような不便な生活だったが、この地でさらに7人の子どもを産み、日本の新聞に「南島に輝く女王」と紹介される。

 戦争でオランダ軍に拘束され、インドネシアやオランダなどいくつもの国を転々としながら、逆境を乗り越え、波瀾万丈の人生を送った女性の一代記。

(岩波書店 2750円)

「ヒロシマを暴いた男」レスリー・M・M・ブルーム著 高山祥子訳

 1945年8月6日に原子爆弾「リトルボーイ」が広島に落とされた時、原爆の創造者たちは誰もこれが作動するかどうかも知らなかった。UP通信社の記者、ウォルター・クロンカイトはこの爆弾に2万トン以上の爆薬が詰められていたというニュースを聞いて、オペレーターが数字を間違えたと考えた。日本に到着した占領軍は、彼らの兵器が与えた被害の情報の封じ込めを図る。

 従軍記者ジョン・ハーシーは広島についての報道を聞いて、人類が恐ろしい新時代に踏み込んだことを知った。ニューヨーク・タイムズは「広島の廃虚に放射能はない」と報じたが、ハーシーは建物ではなく、人間に何が起きたのかを書くべきだと考えた。犠牲者の視点から見た記事を書こうと、広島の教会のドイツ人司祭に話を聞き、原爆の放射線が骨髄に損傷を与えていることを知る。

 隠蔽された原爆の正体を暴いたジャーナリストを描く。

(集英社 1980円)

「ハーベン」ハーベン・ギルマ著 斎藤愛、マギー・ケント・ウォン訳

 12歳のころからハーベンの視覚と聴覚は少しずつ失われ、物の形ははっきり見えず、低周波の音は聞こえにくい。

 ハーベンの通う中学には、視覚障害のある生徒のために、サポート付きのコンピューターなどが備えられている。ある日、提出していない宿題があると言われた。教師は黒板に宿題を書いて読み上げている。教師は教室の一番後ろにある机のところで宿題のことを言ったため、前の席にいるハーベンには聞こえなかったのだ。それからは授業の最後に、誰かに宿題のことを確認することにした。目が見えて耳が聞こえる人のための教室でハーベンは勉強し、ハーバード大学法科大学院に進学する。ハーベンはここでは初の盲ろう学生だった。やがてハーベンは障害者の権利のコンサルタントや文書の作成などのサービスを提供する会社を設立する。

 盲ろうという障害にめげず、自分の可能性を広げて生きた女性の回想録。

(明石書店 2640円)

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