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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

実力派3人出演「琥珀」 濃密な情感は浅田ドラマの醍醐味

公開日: 更新日:

 先週金曜の夜、浅田次郎ドラマスペシャル「琥珀」(テレビ東京系)が放送された。放火殺人事件の容疑者で25年間も逃亡を続けている男。そんな過去を知らないまま、男を好きになった人妻。2人が暮らす北陸の港町に、突然刑事が現れて……という物語だ。

 殺人逃亡犯と刑事が出てくるとはいえ、派手なアクションも緊迫のサスペンスもない。また男と人妻による濡れ場があるわけでもない。しかし、この3人を寺尾聰(70)、鈴木京香(49)、西田敏行(69)が演じることで、見事な“大人のドラマ”となっていた。

 脚本は朝ドラ「ひよっこ」が好調の岡田惠和だ。原作である浅田次郎の短編をベースにしながら、独自のイメージで物語世界を構築していた。寡黙だが実直な男は、なぜ妻と自宅を焼いたのか。明るく振る舞いながらもどこか影のある女は、どんな家庭を持っているのか。

 さらに定年を数日後に迎えるはずの刑事は、何を思ってこの町にやってきたのか。岡田は彼らが抱える心の重荷をじっくりと丁寧に、そして優しい目で描いていく。

 ラスト近く、男が営む喫茶店「琥珀」の中で、3人の会話が約15分間も続く場面がある。それは告白であり、謎解きであり、人が生きる上で大切なものを提示するクライマックスだった。岡田の脚本と寺尾・鈴木・西田の演技が生み出した濃密な情感こそ、浅田ドラマの醍醐味だ。

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