「主戦場」デザキ監督 右派の一貫性のなさを見せたかった

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上演中止要求は恐怖の表れ

  ――「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝副会長や米国弁護士でタレントのケント・ギルバート氏ら出演者5人が先月、デザキ監督と配給元の東風に上映の中止と1300万円の損害賠償を求めて提訴しました。彼らは一貫して監督に「騙された」と主張しています。

 上智大学の大学院にいたころ、彼らに「卒業製作として映画を作りたい」と取材を依頼しました。すると、「それは面白いね」という反応でした。どこで映画を公開するのか聞かれたので、出来がよければ映画祭で上映して、一般公開するかもしれないと伝えました。もちろん、承諾してもらった上で取材の合意書にサインしてもらいました。だから、私に騙されたと言っていることにただただ驚いています。

  ――予想外の反応だった。

 事実として騙していないけど、彼らは騙されたと感じているのでしょう。初めて彼らに会ったときの僕は、意見をオープンに聞くつもりでしたし、そのときは慰安婦問題について何のスタンスもありませんでした。映画を作る過程で導き出した結論に、彼らは「騙された」と感じているのだと思います。つまり、事実とは切り離された感情の問題なのです。

 問題の本質は、インタビューを受けた人たちが、自分たちの主張を支持するように映画を作って欲しいと思っていたこと。事実としては騙されていないけれども、裏切られたと感じている。もちろん、そうした感情も少しは理解できますが。

  ――出演した右派は「主戦場」を「中立じゃない」とも批判しています。

 彼らは何とかして映画の評判を貶めようとしています。映画を見れば、中立かどうか分かるでしょう。そもそも、右派と左派の両方の意見と最も説得力のある議論を分析し、結論を得ると言いましたが、映画の結論が中立になるとは言っていません。もし映画の結論が彼らの主張と同じだったら、「フェアだね」とか言われたんじゃないかな。

  ――上映中止などを求められていることに、怒りを覚えなかったか?

 怒りはありません。ただ、この映画が広まるのが怖いのだろうと思いました。なぜ怖いのかと考えると、多分、映画の影響力が大きいからでしょう。この映画を見たら「この人たちは変なこと言っているね」というのが分かると思う。右派は、それを恐れているのではないか。

 怖くなかったら、上映中止を求める必要はないし、「何か言っているね」と相手にしなければいいだけです。実際、映画が評判になるにしたがって、批判を強めたのです。逆に何も反発がなかったら、この映画にパワーがないということです。

  ――右派との間の“場外乱闘”にスポットが当たっていますが、「主戦場」で観客に伝えたいメッセージは何でしょう。

 見ている人にメッセージを与えたいとは考えていません。「こう考えて欲しい」と訴えるのではなく、見ている人に慰安婦問題とは何かを自分で考えて議論して欲しいのです。映画の最後に米国と一緒に戦争を始めたいかと投げかけましたが、つまり、そうした問題を考えましょうということなんです。

 メッセージではありませんが、慰安婦が“性奴隷”だったかどうかの議論について、明治学院大の阿部浩己教授が解説している奴隷制の定義をぜひ多くの人に知って欲しいですね。制度の下での支配、全的支配(全てにおいて支配された状態)という定義です。「慰安婦はお金をもらえたし、許可を得て外出できたから奴隷ではなかった」という右派の主張がいかにおかしいか分かります。

  ――次はどんな“タブー”に切り込むのでしょう。

 詳細は明かせませんが、日本で今起きていることを題材にしようと考えています。政治的なトピックに近いかもしれません。作れたら面白いなと思いますが、映画を作るには製作費に限らず、いろんな制約があります。今は僕自身が問題の監督になっていますからね。ヒゲを剃って、髪を伸ばして違う人になろうかな。そしたら、また「騙された」って言われるかな(笑い)。

(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ

【主戦場】慰安婦問題を巡る否定派と肯定派の論争を日米韓の主要論客27人のインタビューからひもといたドキュメンタリー映画。3カ国をまたぎ、学者やジャーナリスト、活動家や弁護士らを訪ね歩いたミキ・デザキ監督のデビュー作。釜山国際映画祭2018ドキュメンタリー・コンペティション部門正式招待作品。慰安婦は20万人いたのか、強制連行はあったのか、「性奴隷」だったのか――。否定派の主張を肯定派の主張で反証しながら、複雑化した議論を整理していく。

▽ミキ・デザキ 1983年、米国テネシー州生まれ。日系アメリカ人2世。ミネソタ大卒業後、2007年に外国人英語等教育補助員として来日。山梨県と沖縄県で5年間、教壇に立つ傍ら、ユーチューバーとして差別問題などを扱う動画を多数制作。「主戦場」で映画監督デビュー。

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