演出家・橋爪貴明さん「父・橋爪功の演劇メソッドを世界に発信する仕事は僕がやれる!」

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橋爪貴明さん(演出家/55歳)

 俳優・橋爪功(80)の長男で橋爪塾を主宰、演出家として活躍する橋爪貴明さん。両親は小学5年で離婚したが、舞台の仕事を通して時に親子で酒を酌み交わしながら語り合うことも。演劇人として父と実現したい夢がある。

 ◇  ◇  ◇

 両親は僕が小学5年生の時に離婚しました。母親は元宝塚で東宝演劇の女優、当時はプロデューサーでした。僕はその母に引き取られました。その後、父は再婚して、俳優の異母きょうだいもいます(橋爪遼と橋爪渓)。父とは中学、高校時代は年に1回くらい会っていましたかね。

 21歳になった時、米コロンビア大に留学、多くのハリウッドスターが学ぶメソッド演技法を学びました。帰国してから1989年に唐沢寿明さん、天宮良さんらが出演したミュージカル「COUNT DOWN」を初プロデュースしたのですが、この時、取材でやってきた父がビデオメッセージの形で激励してくれました。ちょうど親父が売れ始めてた頃です。同時期にシェークスピア劇の主役をやっていたので、芝居を見た僕がインタビューを受け、「親父ながらすごい人だな」と思ったのを覚えています。その後も連絡を取り合っていたけど、たまに食事をするくらいでした。演劇の話をするようになったのは34歳の時です。「演劇集団 円」を主宰する親父が伊豆市(静岡)で始めた「菜の花舞台」(毎年4月に開催)で1週間ほど寝食をともにしましてね。一緒に暮らしていないので、短いながらも濃密な時間が流れたというか。

 親父の言葉で印象深いのは「今を生きろ」。俳優は相手役が発する言葉はその時初めて聞く言葉だから、それを聞いたらその瞬間を、今を生き切れという意味です。深い言葉だなと思いました。

 親父は若い時はおふくろに食わせてもらっていた時期もあるんです。その頃に舞台をしこたまやっていたので、勉強して自分なりの考え方やテクニックを身に付けていったのだと思います。

 もっとも、そんなふうに気さくに話してくれるのは僕が演出家だからだと思います。相手が役者だとライバルになるから。ライバルは蹴落とそうとするんです。後輩を育てようとか演技を教えようとかしない。若い役者にも焼きもちを焼く(笑)。どこまでいっても役者です。でも、演出家なら仕方がないという感じなんでしょう。

 菜の花舞台の流れで飲みに行ったりすることもありました。そういう時は普段テレビで見たまんま、ばかばかしい話をしたり、でも、人の話を聞いていないかな。ただ、冗談を言ったかと思えば、突然マジメになる。頭がいい人だし、ものすごい集中力なので、自分のゾーンに入るとそこから一歩も動かなくなりますね。こだわりは強い。

僕の苦言も素直に聞いてくれる

 愛情を感じたこともあります。母親と離婚するちょっと前、人生で一度だけ殴られたのを覚えています。僕がふざけて悪態をついたらバーンとやられた。その後でいえば、円の劇団員に「貴明がこうやりたいと言ってる。文句あるか」なんてね。僕は親父に捨てられたと思っていたけど、子供を愛しているんだなあと思いました。僕が苦言を言うと、聞いてくれますね。女優と噂になった時があるんですけど、「やめろよ」と言ったら、「あ、そうか」って(笑)。

 今は桐朋学園芸術短大で非常勤講師をやりながら、メソッド演技法を教えるオンラインの「橋爪塾」をやっています。桐朋学園では100人くらいに教えています。親父の教えや理論は僕が引き継いでいる面もある。彼も塾には関わりたいと思っているはずだし、相談役のような形で入ってくれたら……。橋爪功の演劇メソッドを世界に発信する仕事は僕がやれる。父は親鸞聖人みたいなところがあるから(笑)、エッセンスを僕がかみ砕いて教える形で。

 橋爪塾として初プロデューする「ロマンス」公演を、僕のこれまでの演劇活動の集大成としてやります。親父は「おまえがやることだから応援する」と言ってくれています。彼は野田秀樹さんと2人で芝居をやっているし、僕も野田さんのことは存じ上げているので、そういうつながりで親父と何かやれたらいいなと思っています。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

▼演劇「ロマンス」(7月1~3日、5回公演、新宿シアターモリエール、4000円)発売中。出演者は3月に橋爪塾がオーディション開催。演出・橋爪貴明、脚本は由紀夫人。

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