(1)「アメリカ合衆国 琉球政府」のパスポートを持って僕らは上京した

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 5月15日は沖縄復帰50周年。数多くいる沖縄出身の芸能人の中でも、その原点とも言えるのが、返還の年(1972)にデビューし「学園天国」などの大ヒットを連発した「フィンガー5」だ。5人きょうだいの中でも人気だった“トンボメガネのサングラス”の晃が当時を振り返る。

 僕は返還前の沖縄で生まれ育った。住んでいた具志川(現・うるま市)は看板から言葉まですべて英語。米国に多くの日本人が住んでいるようだった。街を取り締まるのも日本の警官よりもMPが大半で、いつも拳銃をちらつかせていて怖かった。

 父は「Aサイン(米兵の出入りを許可)バー」を経営していた。馴染みになる米兵も多く、可愛がってもらった。店内ではジュークボックスから常にソウルやロックが流れていて、耳に入ってくるのも英語。英語も音楽も自然に体にしみ込んでいた。

 テレビはNHKと民放1局。ラジオはすべて英語だ。内地の歌謡界で何がはやっているかなど知るよしもなかった。こんな環境で育った兄3人が音楽に刺激を受けバンドを始めたことが「フィンガー5」の原点だ。長男は“演奏させて”と自ら基地に売り込みして、米兵相手に「オールブラザーズ」の名前で活動していた。腕試しに地元のテレビ番組のコンテストに挑戦すると優勝。局の人に勧められて東京行きを決めた。僕と妹の妙子は東京行きのタイミングで加入した。まだ小学校1年ぐらいだったから、自分の意思ではなく兄の命令だった。

 沖縄は父親に次いで長男が絶対的な権力を持つ。兄貴に言われたら弟は従うしかない。両親も「夢に挑戦させてやろう」と東京移住に協力した。沖縄の家とバーは親戚たちに任せ「アメリカ合衆国・琉球政府」のパスポートを持っての上京。沖縄から鹿児島までは船、鹿児島から東京までは夜行列車に乗った。当初は基地での演奏が目的で、横田基地に近い東村山の一軒家を借りた。

横田基地内のバーで演奏し人気者に

 横田でも兄が直談判し、“面白そうな子供バンドがいる”と基地内のバーでの演奏が許された。僕たちは次第に話題になり立ち見も出るほどの人気に。米兵からはドル札の投げ銭が飛んできて、それはそのまま生活費になった。

 困ったのは学校だ。「靴、履いてる」「日本語話せるのか」とバカにされた。ちなみに、当時の沖縄は「沖縄弁禁止」の教育がされていた。米兵と会話する時、英語と標準語の通訳をできる人はいても、沖縄弁を通訳できる人はいなかったからだ。

 授業中も困った。毎晩のように基地で演奏していたから、授業中は眠くて仕方なかった。沖縄の先生は寝かせてくれたけど、東京では起こされた。

 しかし基地の中は米国の法律がまかり通っていて治外法権。子供が深夜まで演奏することは問題なかった。基地間の口コミで広がり横須賀基地にも母が運転する車で行ったけど、兄貴たちはメジャー進出を画策していた。

 上京から1年後の1970年「ベイビー・ブラザーズ」としてデビューしたが「子供のくせに大人の歌を演奏する生意気なガキだ」と批判どころか、教育的指導が入った。当時は「子供は子供らしく童謡でも歌いなさい」という空気だったから、僕らのような子供の洋楽が受けるはずもなかった。

 どうせ売れないと最初から思っていた父親は「基地でやるだけなら沖縄のほうがいい」と荷物をまとめて帰る準備を始めた。僕らも異論はなかった。 =つづく

(構成=二田一比古/芸能ジャーナリスト)

♪晃(あきら) 1961年5月9日生まれ。元「フィンガー5」のメンバー。現在も精力的に音楽活動を展開中。5月14日(土)、「まほろ座 MACHIDA」(東京都町田市)で「晃61stBirthday Live」、22日(日)、「magical fantasy」(東京都足立区)でアコースティックライブを開催。詳細は公式ブログ「山とネコと音楽と!!」まで。

【連載】晃が語る「フィンガー5」とその時代

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