羽鳥好之(作家)
12月×日 来年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」の関連本が書店を賑わしている。手にとったのは、福田千鶴著「豊臣家の女たち」(岩波書店 1166円)。著者は注目の近世史学者で、戦国から江戸期の女性史に関して刮目すべき説を多く提唱している。有名なところでは、3代将軍家光の生母は2代秀忠の正室お江ではなく、表向きは乳母とされてきた春日局その人であるとする主張で、私には疑いようのない説に思える。本作にも目から鱗の分析が随所に光る。中でも秀吉の妻たちを扱った第2章「一夫多妻の豊臣家」では、従来、小説やドラマで描かれていた人物像が確かな史料によってくつがえされる。例えば秀頼を産んだ茶々は、信長の血縁を誇り、秀吉に対して高慢な態度で接する姿で描かれることが多い。だが、そうした事実は確認できず、秀吉の庇護のもとで生きる自身の立場をよくわきまえ、また、2人の妹(1人は先のお江)の将来を案じて、誠意をもって仕えていたことが、秀吉自身の手紙によって明らかにされる。同様に、秀吉の死後、正室のお寧と茶々の間に明らかな対立など見られず、お寧は豊臣家の第一夫人として、茶々も含めた多数の妻たちを守るために全力を尽くしたことが、これも史料によって示されている。いま、在野の研究者も含めて新たな説が次々に掲げられ、歴史がさらに面白くなっている。
12月×日 雑誌「ウェッジ」のコラムを書くため、遠藤周作の「沈黙」(新潮社 781円)を再読する。キリシタンの弾圧が厳しくなる中、日本に潜伏した宣教師が凄惨な拷問の末に棄教に至る様を描く本作は、キリスト教文学として西欧からも高い評価を受けている。遠藤が生涯のテーマとしたのはキリストの人物像であり、イエスはなぜ、自ら進んであれほど惨めな死に方を選んだのか、その謎を解き明かすことだった。小説の舞台となった長崎の外海地区を訪ね、黒崎教会や遠藤の文学記念館を観て回る。いまでも信仰を生活の核として生きる人々がいることに、深い感動を覚える。



















