「住まいの昭和図鑑」小泉和子編著 小野吉彦写真
「住まいの昭和図鑑」小泉和子編著 小野吉彦写真
首都圏のマンションの高騰がとまらない。バブル崩壊以降、新自由主義経済導入によって住宅格差が拡大して、多くの庶民が「ウサギ小屋」に住む一方で、各地で超高層住宅が林立している。
いまやコミュニティーは崩壊し、住宅にとって不可欠な人間性も失われている。住宅史を振り返ると、昭和時代は戦時を除いて、建築家が市民の住宅に真剣に取り組み、人間味あふれる、バラエティー豊かな住宅が盛んに造られた時代だったという。
本書は、令和の今も残るそんな人間性にあふれていた昭和の住宅を紹介するビジュアル図鑑。
昭和と改元された1926年からの10年間は、建築材料や技術が向上し、デザインも含めて、多彩な住宅が建てられた。しかし、そのほとんどが戦争で失われたという。
数少ない戦前の個人宅のひとつ「駒井家住宅」は、動物学者の駒井卓夫妻の住居として1927(昭和2)年に完成した洋風住宅だ。
設計は、明治時代に来日したW・M・ヴォーリズの建築事務所が担った。
先進的な女性だった静江夫人のライフスタイルが反映された住宅は、洋風住宅の一角に和室を加えた間取りで、主寝室にはサンルーム、台所の調理台には大理石の板などが用いられている。健康と生活に配慮したヴォーリズの住宅思想は、当時の日本の住宅に広く影響を及ぼしたという。
以降、戦前の統制下、戦後の住宅難時代、そして経済成長が始まり、住宅公団が設立され、本格的な集合住宅の時代となった昭和30年代以降と、建築年代順に4つのグループに分類して戸建て住宅18件、集合住宅6件を多くの写真で紹介。
大切に使われ、継承されてきた建物の物語に、人間の暮らしにとって、あるべき住まいとはどのようなものかと考える。
(エクスナレッジ 2860円)



















