河瀬直美監督「東京2020オリンピック SIDE:A」歴史的“大コケ”の必然…欧米ウケを重視か?

公開日: 更新日:

 今月3日から公開したものの、河瀬直美監督のスタッフ暴行報道や観客の不入りなど、中身以外の話題ばかりが先行する映画「東京2020オリンピック SIDE:A」。頼みの口コミも不調で、SNSには「映画も無観客状態」などと揶揄する声が目立ち、Yahoo!映画の投稿掲示板でも最低点の星1つが59%と散々だ。総すかんをくらった背景について、映画批評家の前田有一氏が解説する。

「私が見た品川の映画館でも、初日の夜というのに観客はわずか9人でした。敬遠された理由としては、公式エンブレムの盗作疑惑や新国立競技場の建築費高騰をはじめ、問題を起こし続けた東京五輪自体への反感の強さがまずあるでしょう。さらに大会組織委員会の会長だった森喜朗や、開会式の音楽担当・小山田圭吾がハラスメントで辞任し、とどめに河瀬直美監督自身のパワハラ問題です。NHK・BS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』で、字幕を捏造したとされる問題も鎮火していません。また、河瀬監督は作家性が強く、ただでさえ“独り善がり”と批判されがち。万人受けとは真逆の作風なので、こうなる可能性は十分予測できました」

 1912年の第5回ストックホルム大会以来作られている公式映画で、今回は2部作となっている。公開中の「SIDE:A」では主にアスリートに焦点を当て、コロナ禍で無観客開催を余儀なくされた状況の中で葛藤、奮闘する選手たちの本音に迫る。

 映画は開花した桜に雪が舞い散る東京、そして皇居の幻想的な風景から始まる。開催反対の市民運動や、コロナ禍に見舞われ無人状態となった各都市の様子を、ナレーションなしの映像詩のようにつないでいく河瀬作品ならではの個性的な演出だ。「私にしか撮れないもの」「自分の作家性が失われていないと信じることが出来た」と監督自身が語る通り、独創的な視点と映像美が見どころだ。

テーマは「分断」

 登場するアスリートも、シリア難民の選手や、BLM(ブラック・ライブズ・マター)活動家でもあるハンマー投げのグウェン・ベリー選手(米国)、乳児連れで来日した女子バスケットボールのキム・ゴーシェ選手(カナダ)など特徴的だ。

「河瀬監督が込めた本作のテーマはズバリ“分断”でしょう。季節外れの雪と桜の冒頭から示唆されていますが、空手の喜友名諒選手の勝利の直後に在日米軍基地をチラッと写すショットを入れたり、コロナ禍で赤ん坊と一緒の入国を困難視されたカナダ選手が、その“分断”にあらがう話を撮り続けるなど、その意図は明らかです。ここ数年、世界の映画界では分断批判のテーマが大流行中なので、国内よりも欧米ウケを意識したのかもしれません」(前田氏)

 大コケは必然だったようだ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    小室圭さん年収4000万円でも“新しい愛の巣”は40平米…眞子さんキャリア断念で暇もて余し?

    小室圭さん年収4000万円でも“新しい愛の巣”は40平米…眞子さんキャリア断念で暇もて余し?

  2. 2
    メジャー29球団がドジャースに怒り心頭! 佐々木朗希はそれでも大谷&由伸の後を追うのか

    メジャー29球団がドジャースに怒り心頭! 佐々木朗希はそれでも大谷&由伸の後を追うのか

  3. 3
    若い世代にも人気の昭和レトロ菓子が100均に続々! 製造終了のチェルシーもまだある

    若い世代にも人気の昭和レトロ菓子が100均に続々! 製造終了のチェルシーもまだある

  4. 4
    巨人にとって“フラれた”ことはプラスでも…補強連敗で突きつけられた深刻問題

    巨人にとって“フラれた”ことはプラスでも…補強連敗で突きつけられた深刻問題

  5. 5
    長渕剛の大炎上を検証して感じたこと…言葉の選択ひとつで伝わり方も印象も変わる

    長渕剛の大炎上を検証して感じたこと…言葉の選択ひとつで伝わり方も印象も変わる

  1. 6
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7
    「監督手形」が後押しか…巨人入り目前から急転、元サヤに収まった真相と今後

    「監督手形」が後押しか…巨人入り目前から急転、元サヤに収まった真相と今後

  3. 8
    東京15区補選は初日から大炎上! 小池・乙武陣営を「つばさの党」新人陣営が大音量演説でヤジる異常事態

    東京15区補選は初日から大炎上! 小池・乙武陣営を「つばさの党」新人陣営が大音量演説でヤジる異常事態

  4. 9
    高島彩、加藤綾子ら“めざまし組”が大躍進! フジテレビ「最強女子アナ」の条件

    高島彩、加藤綾子ら“めざまし組”が大躍進! フジテレビ「最強女子アナ」の条件

  5. 10
    「救世主にはなり得ない」というシビアな見方…ピーク過ぎて速球150キロ超には歯が立たず

    「救世主にはなり得ない」というシビアな見方…ピーク過ぎて速球150キロ超には歯が立たず