俳優・加藤義宗さん 28歳でわかった「父がシリアスな『審判』にこだわった理由」

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加藤義宗さん(俳優/42歳)

 舞台だけでなく、テレビ、映画と活躍の場を広げている加藤義宗さんは父・加藤健一さんに師事し、俳優としての基礎を厳しく仕込まれた。2年前には自らプロデュースユニット「義庵」を立ち上げ、父の代表作である一人芝居「審判」を上演し、好評を得た。今回はそれをブラッシュアップしての再演。俳優としての転機は?

 ◇  ◇  ◇

 2年前に「審判」を初演した時は、セリフを入れるのだけでかなりの時間を費やしました。なにせ7万語ともいわれる膨大なセリフを1人で2時間半しゃべり続けるのですから。でも、父のDNAでしょうか、セリフ覚えで苦労したことはなく、今回も昨年の暮れから稽古を始めて、すぐに9割くらいのセリフは体に入ったので、それをいかに練り上げるかに集中できました。

 父の芝居は5歳くらいの時から強制的に見せられていましたね。稽古場が遊び場所のようなものでした。でも、「加藤健一事務所」の芝居は理屈抜きで笑える海外のコメディーとシリアスな芝居の2つの路線があり、「審判」だけは暗くて重くて……。高校生の頃までは、なんでこんな芝居をやるために父が30歳で事務所を立ち上げたのか正直、わかりませんでした。それが変わったのは28歳の時です。

 16歳の時に「私はラッパポートじゃないよ」という父の事務所の舞台でデビューして、その後もほかのプロデュース公演などに出演していたのですが、自分が役者に向いているかどうかわからなくて、別な仕事に就いた時期もあったんです。でも、どれも長く続かず、やっぱり自分には役者しかないと父に相談したら「わかった」と役者だけでなく、裏方の仕事までみっちり仕込まれました。

 その時、改めて父と向き合い、「審判」に込められた反戦のテーマに共鳴しました。いつかこの作品を演じられる役者になりたいと決意したんです。

2時間半、1人でしゃべりっぱなし

 第2次世界大戦の時に、地下室に閉じ込められた将校たちが生き残るために仲間の肉を食べるという凄惨な物語で、1人で2時間半、しゃべりっぱなし。内容も過酷なら、演じる方も精神的、体力的に過酷で、この作品に挑戦したのは父以外に、ほとんどいないというのもうなずけました。

 父は30歳から55歳まで25年間で239回、主人公のヴァホフを演じましたが、私はまだ5ステージ。先は長いです(笑)。

 父もよく、再演しないのかと聞かれるそうですが、体力的に無理と判断したそうです。

 極限下での60日間を疑似体験するのですから、精神的にもきついし、長時間立ちっぱなしというのは体力的にきついんです。1、2回なら持ちますが、次第に腰や背中に来て、最後は膝に疲労が来ます。

 私の場合は舞台が終わったら、いったん全部体から「ヴァホフ」を追い出すんです。家に帰ったら6歳の息子と無心に遊ぶ。それが心のケアになります。

 父が偉大だと同じ職業を選んだ子供が苦労するとよくいわれますが、私は子供のころからそんな世間の目に慣れっこでして、父を超えるよりも、自分のやりたい芝居ができればいいと作ったのが「義庵」でした。

 DNAのせいか、私は父の演技をマネするのが得意でして。古典芸能はまず「マネ」から入るというじゃないですか。そこから自分独自の演技ができていけばいいと思っています。やはり最も尊敬する俳優は父です。

 8月に父も「スカラムーシュ・ジョーンズ or 七つの白い仮面」という日本初演の一人芝居をやるんです。そちらもぜひ見てほしいですね。

(聞き手=山田勝仁)

▽加藤義宗(かとう・よしむね) 1980年1月、東京生まれ。96年加藤健一事務所プロデュース公演「私はラッパポートじゃないよ」で初舞台。同事務所の俳優教室17期生。2020年、プロデュースユニット「義庵」を立ち上げ、第1回公演として「審判」を上演した。

■6月22日から再演 ◆義庵2nd ACT「審判」(作=バリー・コリンズ、訳=青井陽治、演出=加藤健一、6月22~26日、調布市せんがわ劇場)。第2次世界大戦中、ドイツ軍の捕虜となったロシア軍陸軍大尉アンドレイ・ヴァホフが語る60日間の監禁生活。

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