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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHK戦争ドラマの佳作「アイドル」 古川琴音を抜擢したことに拍手だ

公開日: 更新日:

 これは女優・古川琴音による古川琴音のための古川琴音のドラマだ。11日に放送された主演作、特集ドラマ「アイドル」(NHK)である。

 物語は「二・二六事件」の起きた1936(昭和11)年から始まる。威容を誇るムーラン・ルージュ新宿座。どんな時代も人々はエンターテインメントを求め、劇場にも足を運んだ。不穏な空気をひととき忘れ、歌とダンスに熱狂したのだ。

 地方から出てきた少女・とし子(古川)はムーランの座員に選ばれ、やがて「明日待子(あしたまつこ)」の名でトップアイドルとなっていく。

 まず、このヒロインに古川を抜擢したことに拍手だ。実在の明日待子と似た顔をした、アイドルグループのメンバーなどが演じていたら、全く違う作品になっただろう。古川という天才肌の憑依型女優だからこそ、戦時下のアイドルの喜びも悲しみも深いレベルで表現できたのだ。

 アイドルは人を励ます仕事だと信じていた待子。しかし、学徒出陣の若者や、慰問で訪れた戦地の兵士たちへの励ましが、死へと向かう彼らの背中を押すことになると気づいて、待子は苦しむ。

 出征が迫るファンたちに、待子がこう呼びかけた。「皆さん、私はずっとここにいます。だから、また会いに来て下さい!」。生きて帰って欲しいという願いの言葉だ。

 静かなる戦争ドラマの佳作と言える一本だった。

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