著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

古書 フローベルグ(蔵前)高い天井、重厚な本棚…海外の古本屋に迷い込んだよう

公開日: 更新日:

 カフェや雑貨の店が増えて散策が楽しい蔵前。レトロなビルの1階の一室をフルリノベーションした本屋さんだ。

 ドアを開けると、天井が高く、店の奥へ視線がすっと伸びる。どこか海外の古書店に迷い込んだみたい、と思った。本棚が重厚なアンティークだったりもする。11坪。正面の机に目を落とすと、まつむらまいこ「きょうはもうねます」、ただあやの「満ちている」などすてきな装丁の絵本が積まれ、まるで小さな展示のようだ。

「イギリスの本屋に似ていると言われますね」と店主の中村啓太さん。この店の始動は2020年だが、中村さんは青山ブックセンターなどで働いた後、オンライン販売を軸に、カフェに卸したり、催事に出たり。古書の世界に入ってもう11年になるそう。当初はオールジャンルを取り扱ったが、洋書絵本やアート中心にシフトさせたのは、「隆盛になったインスタと親和性が高かったから。お客さんに育ててもらいました」と。

 屋号は17世紀のドイツ生まれの作曲家、フローベルガーにちなんで。フランスかぶれの彼はフランス風に「フローベルグ」と楽譜にサインしていたそう。そんなこんなの話を聞きつつ、洋書絵本の棚に目を向ける。

「洋書絵本は1800年代からのものを揃えています」

 北欧、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ……と、区分されているが、いずれも絶妙の色づかい。いつ頃の古本ですか?

「近代絵本の成立期とされる1800年代から、ですね。1880年ごろ、イギリスでウォルター・クレインとケイト・グリーナウェイ、ランドルフ・コルデコットの3人と、木口(こぐち)木版という手法を始めた出版人エドマンド・エヴァンズが協働し、ハイクオリティーの印刷と大量生産をかなえたんです」

 中村さんはあまり口数が多い方ではなさそう、との最初の印象がころっと変わり、言葉が躍り出した。「絵本は印刷技術の発展と不可分なメディアです」と紙と印刷について教えてくれる。「レコードがなかった19世紀末から20世紀にかけて、子どものために家庭で“楽譜絵本”が必要だったんです。ま、上流階級でしょうけど(笑)」と、その“楽譜絵本”の数々を見せてくれる。

 さらに、ちょっと面白かったのは、アメリカの図書館から除籍になった本。1958年の出版という「IN THE MIDDLE OF THE TREES」には、貸出票を入れる袋の貼り付け跡が。多くの人に読まれ、そしてここへやってきたんだろうな──。

 選ぶのは、内容重視? ビジュアル重視? と聞くと、「その両方です。コロナ前まで頻繁に仕入れにヨーロッパ、アメリカに行ってましたが、航空運賃が上がりすぎて。今は懇意な海外の古本屋から送ってもらっています。毎年1万冊ずつ11年見ているので、作家のつながりも分かるようになってきました」

 よく来るお客さんが、絵本作家だったというケースも多いそうだ。

◆台東区蔵前4-14-11 ウグイスビル101/℡03-5829-3793/都営浅草線蔵前駅A0出口から徒歩2分/正午~午後6時/水曜休み

ウチが作った本

「Hommage aux artistes du livre d’enfants du passé」大桃洋祐、きくちちき、原倫子ほか著

「邦題は『在りし日の、子どもの本の芸術家たちへのオマージュ』。昨春、当店で開催した10周年記念展の図録です。この企画展は、活躍中の10人の絵本作家、イラストレーターの方々に、それぞれオマージュする、1967年までに亡くなった作家を選んでもらい、オマージュ作品を描いてもらったものでした。この図録には、作品図版とともに、その作家をオマージュするに至った経緯が、創作への思いを含めてつづられています」(Frobergue 1800円)

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