「本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形」稲田豊史著/中公新書ラクレ(選者:中川淳一郎)
いまや予備校では受験生に読書を控えさせている
「本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形」稲田豊史著/中公新書ラクレ
ベストセラー「映画を早送りで観る人たち」著者による一冊。タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパを重視する若者たちにヒアリングし、なぜ彼らが本を読まないのか、について考察を深めていく。
ものすごく単純化すると、本は余計な情報が多過ぎ、タイパが悪い、ということになる。あとは、新書ですらいまや1000円以上することは多いわけで、まず、高い。大学の授業で役に立つ本は読むが、それ以外は不要。何せコスパが悪いから。
こうした若者の現状が紹介されるが、著者が接した若者は本は読まないがバカではない。村上春樹の小説を10ページも読めない女性も登場するが、むしろ的確な答えを返してきたりするなど、「本を読む=頭がいい」は必ずしも当てはまらないと著者は指摘する。
さらに、大学受験のための予備校では、長文読解の対策として、「読まなくていいところの特定」をまずはするよう講師は指導するのだとか。
〈予備校と言えば、いまや受験期には子供たちに読書を控えさせるのが定番の指導となっている。読書は長期的に読解能力や論理的思考力を高める効能があるかもしれないが、狙った学校に合格するためのテクニックやコツを効率的に習得する用途としてはコスパが悪すぎる。その意味で、読書は時間の無駄なのだ〉
あとは出版社やライターといったテキストを紡ぐ側の苦境もつぶさに紹介される。読み放題(月額980円でとんでもなく安い)のKindle Unlimitedを例に挙げてこう結論づけた。
〈インターネットが多くの「小さき存在」に平等にチャンスを与えたのは事実だが、そこでは現実世界以上に身も蓋もない、非情な弱肉強食の淘汰が待っていた。売れるものは徹底的に売れる。売れないものは徹底的に売れない。勝者は勝ち続け、敗者は負け続ける〉
さらにはウェブメディアの現状や、AI活用の方法なども網羅されているため、仕事にすぐ使える技も知ることができる。つまり、本書の主張を構成する重要要素である「タイパとコスパがいい」のだ。
本好きの人間にとっては、あまり明るい話はないものの、著者が「映画を早送りで観る人たち」のヒットにより、どれだけの波及があったか、なども具体的な金額とともに紹介している。そういった意味で紙の本を出すことにもまだまだ価値があるといった希望は与えられる。ただし、売れなくては、という条件付きではあるが。
★★半



















