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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHKスペシャル「海辺にあった、町の病院~震災12年 石巻市雄勝町~」命をめぐる葛藤を浮き彫りにした秀作

公開日: 更新日:

 東日本大震災から12年となる3月11日の夜、NHKスペシャル「海辺にあった、町の病院~震災12年 石巻市雄勝町~」が放送された。

 半世紀以上も地域の医療を支えてきた、市立雄勝病院。震災当日、巨大な津波は建物の屋上まで達し、患者や職員の9割が命を奪われた。自力で動くことが困難な高齢の患者が多かったことが、犠牲者を増やした要因ともいわれている。職員たちは必死で彼らを救おうとしたからだ。

 番組は残された遺族や同僚の証言を軸に構成されていた。たとえば、訪問看護で外に出ていて助かった看護師は「どこか申し訳ない」「病院に戻れなかった自分を責める」と語っている。

 また非番だったにもかかわらず、病院に駆けつけて亡くなった看護師もいた。彼女の娘は「母にとって患者さんは家族」だったと言う。その一方で、確かに「職員は被害者」だが、「患者さんの遺族から見たら加害者でもある」と複雑な思いを吐露していた。さらに亡くなった男性職員の妻は、夫が職務を全うしたことを誇りとしながらも、「逃げてもよかったのではないか」と胸の内を明かす。

 12年の歳月を経て、ようやく語ることのできた揺れ動く心情。この番組は、当事者たちの気持ちと静かに向き合いながら、終わることのない「命をめぐる葛藤」を浮き彫りにしていた。今年の震災特集の秀作である。

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