楔形文字で書かれた記録をもとに都市の盛衰を描く「楔形文字が語る古代オリエント」小林登志子著
「楔形文字が語る古代オリエント」小林登志子著
現在、世界には数多くの都市があるが、世界最初の都市といわれるのが、メソポタミア南部のウルクだ。ウルクはまた世界最古の文字「ウルク古拙文字」が誕生した地としても知られる。紀元前3200年ごろに誕生した絵文字でシュメル文字とも言われる。この文字は表語文字だったが、紀元前2500年ごろには表音文字の楔形文字が登場し、多くの言語の表音文字として西アジア世界に広く普及するようになる。もともとは交易活動の記録として生まれた文字だが、やがて王朝の歴史や「ギルガメシュ叙事詩」のような伝承物語などもこの楔形文字で書かれるようになる。本書は、楔形文字で書かれた記録をもとに古代オリエントの都市の盛衰を描いたもの。
登場するのは、ウルクに始まり、メソポタミア最初の帝国・アッカド帝国の首都アッカド、古代オリエントの最大都市バビロン、アケメネス朝ペルシアの首都スーサなど10都市。王碑文や文学作品、手紙などさまざまな楔形文字の史料を手掛かりとして当時の王朝交代や都市文明の様子を描いていく。
当時文字の読み書きができるのはごく一部の層に限られていたが、一般商人や王族の女性たちが文字に託して情報や思いを伝えている文書も少なからず残されている。またエジプトで発掘されたアマルナ文書(紀元前14世紀)はヒエログリフではなく楔形文字で書かれていて、オリエント世界の共通文字としての役割が見て取れる。2000年以上の長い寿命を保っていた楔形文字だが、やがてアラム語アラム文字に取って代わられる。
粘土板に刻まれた楔形文字の文書は持ち歩きには不便だが耐久性に優れている。現在発掘されているのはごく一部で、今後新たに発見されるのではと期待もされている。
しかし、現在このオリエント地域は戦火にさらされており、貴重な人類の知的遺産が風前の灯火といった状態に置かれているのは、寒心に堪えない。 〈狸〉
(新潮社 1980円)


















