著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

10代で何かに猛烈に心を奪われた経験をもつ人へ…中森明夫著「推す力」は上質な成長譚だ

公開日: 更新日:

 AKB48誕生の前夜、仕掛け人の秋元康氏から依頼されて秋葉原の小さな劇場に足を運んだ日の逸話がおもしろい。終演後に某アイドル系ライターと述べあった感想が全く違うことを解説しながら、「本物のアイドルおたく」と「所詮はアイドル評論家の私」の相違をあざやかに描いてみせるのである。

 では「アイドルのファンに批評は必要ない」と言われ、「批判にさらされがち」な評論家の存在意義とは何か。著者の言いぶんは一点の曇りもない。曰く「批評家とは、ファンに向けて語るものではない。社会に向けて発信するものだ」と。どうだろう。これ以上なく明確、すがすがしいほどではないか。

 還暦を過ぎた著者は〈おひとりさまシニア〉。「一度も結婚しなかった。妻も子供もいない。同棲したこともない。ずっと一人暮らし(中略)ああ、自分の人生って、いったい何だったんだろう」と述懐する瞬間もある。では母の作る煮魚よりボンカレーを選び、終夜営業の牛丼屋を友とする人生に後悔があるのか。それはない。なぜならアイドルを「推す」ということは──。この結論部分こそが中森明夫の決意表明であり真骨頂。アイドルに関心はなくとも、10代で何かに猛烈に心を奪われた経験をもつ人すべてにお勧めしたい、上質な成長譚である。

 なお12月1日(金)に下北沢の本屋B&Bで『推す力』刊行記念の対談を中森さんと行います。お近くの方はぜひご来場ください。オンラインでも参加可能です。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因