著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

10代で何かに猛烈に心を奪われた経験をもつ人へ…中森明夫著「推す力」は上質な成長譚だ

公開日: 更新日:

■決意表明と呼びうる一冊

 中森さんの新著『推す力』(集英社新書)は、副題に「人生をかけたアイドル論」とある通り、決意表明と呼びうる一冊だ。著者が11歳だった71年に16歳でデビューした南沙織を起点とする極私的アイドル論。2019年発表の小説『青い秋』も自伝的性格が強かったが、今回は新書とあって、固有名詞を駆使した体験談がふんだんに綴られる。平易な語り口からは著者の声が聞こえてくるようで、肩の凝らない読みものになっている。

 いきなり第1章からぐいぐいと読ませる。伊勢志摩の漁村で酒屋を営む家庭の次男坊として生まれ育った著者が〈70年代前半の中学生男子のある日曜日〉という設定で切りとったあまやかなメモワール。登場するアイドルは、のちの大女優・原田美枝子だ。

 テレビから『スター誕生』の萩本欽一の素っ頓狂な声が流れてくる茶の間。母親が運んでくる昼食を、少年は「うわっ。またサカナの煮付けだ!?」と忌避する。「黒々とした骨だらけのサカナ」が苦手な彼が、心のなかで「自分一人だけボンカレーでも作って食べよう」と悪態をつく場面はなんとも象徴的。日本、地方、家族、単調といった、若き日の著者が苦手としていたものが凝縮されているからだ。彼はほどなくして上京、退屈を捨て、刺激的な日々に猛スピードで突入していく。その手がかりを作ってくれたのはいつも女性アイドルだった。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    有本香さんは「ロボット」 どんな話題でも時間通りに話をまとめてキッチリ終わらせる

  2. 2

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 3

    NHK「昭和16年夏の敗戦」は見ごたえあり 今年は戦争特別番組が盛りだくさん

  4. 4

    市船橋(千葉)海上監督に聞く「高校完全無償化で公立校の受難はますます加速しませんか?」

  5. 5

    綾瀬はるか3年ぶり主演ドラマ「ひとりでしにたい」“不発”で迎えた曲がり角…女優として今後どうする?

  1. 6

    プロ志望の健大高崎・佐藤龍月が左肘手術経てカムバック「下位指名でものし上がる覚悟」

  2. 7

    中山美穂「香典トラブル」で図らずも露呈した「妹・忍」をめぐる“芸能界のドンの圧力”

  3. 8

    石破首相が「企業・団体献金」見直しで豹変したウラ…独断で立憲との協議に自民党内から反発

  4. 9

    長渕剛がイベント会社に破産申し立て…相次ぐ不運とトラブル相手の元女優アカウント削除で心配な近況

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希“ゴリ押し”ローテ復帰が生む火種…弾き出される投手は堪ったもんじゃない