(52)帰りたい、施設に帰りたい…救急搬送された母は言った

公開日: 更新日:

 ある冬の夜、施設に入所している母がコロナウイルスに感染し、救急搬送された。東京にいる私が連絡を受けたのは、すでに搬送から数時間が経ってからだった。着信に私はまったく気づいていなかったのだ。

 原因は、猫だった。仕事中、私のデスクの上に寝そべった猫が、偶然キーボードの「サイレントモード」キーを押してしまっていたのだ。

 施設には、母に何かあっても救急搬送しないでいいと伝えてあった。しかし、高熱が続き痰が出始めた母を見て、施設の職員は動揺した。私に連絡を取ろうとしても電話に出ないので、やむを得ず救急車を呼んだのだ。

 女性医師からの電話は冷たかった。母は酸素マスクをつけられているとのことだった。「急変すれば、もう意思疎通が難しくなるかもしれません。覚悟してください」。早口で告げられる説明と同意事項。コロナ感染なので個室料がかかる、暴れれば拘束する、人工呼吸器はつけるかどうか……急すぎて頭がついていかない。

 母は寝たきりなので、自室の外に出ることはない。感染経路は、どうやらデイサービスで外に出た他の入居者だったという。職員を介してウイルスが届いたらしい。

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