著者のコラム一覧
尾上泰彦「プライベートケアクリニック東京」院長

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

(1)ドスを突き立て「俺の女の淋病を治せねえのか!」

公開日: 更新日:

 大学医学部を出て半世紀が過ぎ、気がつけば100万人超の性感染症の患者を診てきました。今回は思い出深い患者の話を交えてお話ししましょう。

 私の父は淋病研究で学位を取った開業医です。戦中は軍医として働き、陸軍中野学校や憲兵学校の関係者も診ていたようです。子供の頃には、若かりし時代の東條英機首相のエピソードも聞きました。

 その父が急死し、多くの性感染症患者が取り残されました。医師になって10年目の私は、大学の泌尿器科教室で研究や診療に明け暮れていましたが、半ば仕方なく父の後を継ぐことになったのです。いまは性感染症専門医療機関の雇われ名誉院長ですが、当時の私は血気盛ん。やがて独力で診療所をつくりたくなり、東京や大阪と並ぶ色街として知られる川崎で開業したのです。37歳でした。

 診療所の周りはソープランド街。開業前日の荷物が雑然とした診療所に、淋病の患者が飛び込んできて「先生、注射打ってくれよ!」と叫ぶ。“スゴイところに来たな”と思いました。

 若い医師の診療所という物珍しさもあって、さまざまな患者が訪れます。

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