松井守男
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松井守男画家

1942年、豊橋生まれ。武蔵野美術大学を卒業と同時にフランスに渡る。パリを拠点に制作活動を始め、アカデミー・ジュリアンやパリ国立美術学校に学び、またピカソと過ごす時間の中で大きな影響を受ける。2000年にフランス政府から芸術文化勲章、03年には最も栄誉ある勲章レジオンドヌールを受章。著書に「夕日が青く見えた日」(フローラル出版)がある。

「アートとは心の癒やしであり、資産でもある」自分の財産を自分で守る

公開日: 更新日:

 アートは、心を豊かにするもの--。だが、松井氏は「それだけではない」と教える。

「アートは資産になるということを忘れてはいけない。ヨーロッパ、特にフランスは幾度となく戦火に包まれてきた過去がある。国が混乱に陥れば、紙幣は紙切れになるし、大量の貨幣を持ち運んで移動することは困難になる。そのためフランスでは、いつなんどきでも自分の財産を自分で守れるようにしておかなければいけない」

 そこでアートの出番というわけだ。

「以前、『徹子の部屋』に出演した際、黒柳さんから『大切な絵をくるくると巻いて持ってきてくれたんですか』と尋ねられた。しかし、これはヨーロッパでは当たり前のこと。持ち運べなければ、資産として意味をなさない。混乱のさなか、額縁ごと持って移動するなんて現実的ではないし、他者から資産を持っているとバレてしまう(笑い)。私は以前、この連載内で、『学生時分にもかかわらず、私の絵を購入してくれる人がたくさんいた』と話した。それはフランス人がアートを資産と考え、さらには投資だと解釈しているからでもある」

 有望な若手アーティストの作品は、何年後、何十年後に大きな付加価値を生む。

「そのためフランス人は、アートに対してシビアな目を持っているし、審美眼を養うことに労をいとわない。親が子どもを、あるいはおじいさんやおばあさんが孫を連れ、アトリエを訪れることは日常茶飯事だ。アートが、自らの人生を経済的に豊かにするものといった意識が徹底している。そういえば、フランスで親しくしている税関の友人から、『君はフランスで一番の偽札職人だな』なんてジョークを言われたこともあったなぁ(笑い)。フランスにおけるアートとは、身を助けるもの。もちろん、それは経済的な側面だけではなく、精神面においても同様だ。一度、『もしあなたが買った私の絵が、将来、価値を生まなかったらどうする』と聞いたことがある。すると、その人は『絶え間なく心を癒やしてもらうことになるから、その価値だけで十分だ』と答えた。私はとてもうれしかった」

 アートは、日々の疲れやストレスを消却していく。日本人は、アートをありがたいものと認識し過ぎているきらいがある。もっとフランクに接した方が、生活に張りや彩りが生まれるとも。

「心の癒やしであり、資産でもある。このバランスが大事。財産というのは、自分で価値基準を決めなければいけない。しかし、日本ではお墨付きをもらわないと価値を見いだすことができない人が多い。でも、それでは自分にとっての癒やしと財産のバランスを欠いてしまう。自分の心が癒やされる、そしてそこに価値があると自分で言い切れる。そういうものを身の回りに増やしていけば、審美眼というものは養われていくと思う」=つづく

(構成=我妻弘崇)

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