元タレントが見た過酷な現実。芸能界で“誰かのお気に入り”になった女と拒んだ女の過酷な分かれ道
誰かの“お気に入り”
世間を揺るがす芸能界の黒い噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸能界ですが、昔はグレーなこともたくさんあったのだとか。かつて芸能業界で働いていた際に見た光景とは?
「売れたければ、誰かの“お気に入り”になるしかない」
これは、私がまだタレントとして活動していた頃、楽屋で先輩から言われた言葉だ。当時は笑って聞き流したが、後になってそれが単なる冗談ではなかったと痛感する。
芸能事務所に所属していた頃、同期の彩香(仮名)と私はほぼ同時期にデビューした。
身長も年齢も近く、オーディションの現場でもしょっちゅう顔を合わせる仲だった。お互い下積み中で、仕事は単発のエキストラや深夜番組の端役ばかり。
そんな私たちの差が目に見えて開き始めたのは、あるイベント出演の後だった。
その日、彩香は事務所の重役と同じ車で会場に到着し、控室も私たちとは別の個室。
スタッフが慌ただしく出入りし、彼女の周りだけ小さな“結界”が張られたようだった。その後まもなく、彩香は看板番組のレギュラーに抜擢され、雑誌の表紙にも登場するようになった。
「推される」流れの持ち主
彼女は演技力もビジュアルもあったが、それ以上に「推される」流れを持っていた。
業界の人間関係の中で、誰かの特別な存在になることが、時に努力よりも大きな武器になるーーその現実を、私は初めて目の当たりにした。
一方で、その座は安定したものではない。
推してくれる人の立場や興味が変われば、状況は一瞬で逆転する。
彩香もその数年後、事務所の派閥争いのあおりを受けて番組を降板し、徐々にメディア露出が減っていった。SNSでは「休養中」とだけ発表されたが、実際には次の仕事が決まらないままだったと聞く。
誰かの“お気に入り”になる勇気はあるか
もちろん、すべての売れっ子が裏の力で動いているわけではない。実力と運を武器に、自分の力で階段を上がっていく人もいる。
だが、同じくらい多くの人が、表に見えないコネや“お気に入り”という立場によって表舞台に押し上げられているのも事実だ。
私はその頃、何度も自問した。
「もし誰かの“お気に入り”になるチャンスがあったら、受け入れるのか?」と。
答えは簡単ではない。自分のプライドや信念と、夢の現実化との間で揺れるのは、タレントに限らずどの業界でもあることだろう。
芸能界は華やかに見えて、内側はとても脆いバランスで成り立っている。表舞台に立つ人と、消えていく人。その差は、努力や才能だけでは説明できない部分がある。
彩香の笑顔の裏にあった葛藤や不安を、当時の私は知る由もなかったが、今なら少しわかる気がする。
努力だけでは届かない壁
そして私はあの頃の自分にこう言いたい。「お気に入りになることが近道かもしれない。でも、それは同時に出口のない迷路の入り口でもある」と。
彩香が消えていった後、彼女のように急浮上しては消えていく人を、私は何人も見てきた。
まるで舞台の照明が一瞬だけ強く当たって、次の瞬間には真っ暗になるように。輝く時間が短い人ほど、その光はまぶしく、そして儚い。
中には、あえて“お気に入り”の立場を拒んだ人もいる。
誰の力も借りず、自分の実力で勝負したいと望んだその人は、長い下積みの末にやっと名前が知られるようになった。
だが、売れ始めた頃には若手としての鮮度は薄れ、スポンサーや制作側の興味も一時的なもので終わってしまった。努力だけでは届かない壁を、私はそこで見た。
芸能界で生き延びるための三つの力
結局、この世界で長く生き残るには、実力、運、そして“誰かに推される力”の三つが必要なのだろう。
ただ、その三つ目は、自分から選べるものではない。
人の好みや情勢によって左右され、時に恋愛や私生活すら巻き込む。だからこそ、多くの人がその立場を望みながらも、恐れている。
私自身は、あの頃の判断を後悔していない。お気に入りになってスポットライトを浴びることも、裏で消耗することも、どちらも覚悟がいる。
そして、その覚悟を持てなかった私は、静かに表舞台を降りた。
“お気に入り”という言葉の重さ
ただ、時折テレビで新人タレントが急に売れ出すのを見ると、「彼女(彼)は今、どんな光と影の中にいるのだろう」と考えてしまう。
芸能界は、夢を叶える場所であり、同時に夢を試す場所でもある。
“お気に入り”という言葉の軽さの裏にある重さを、あの世界にいた人間はみな知っている。スポットライトが消えた後の暗闇の深さも、きっと同じくらい。
(おがわん/ライター)