山崎ナオコーラ(小説家)
7月×日 夏が、子どもにつき合って過ぎていく。私はフリーランスの小説家でずっと仕事なのだが、うちには小学生と保育園児がいて、つられて夏休み気分になってしまう。「ピタゴラスイッチ」という子ども向け番組が好きな子どもたちは、佐藤雅彦さんが好きだ。横浜美術館でやっていた佐藤さんの回顧展を見にいく。ミュージアムショップで「作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録」(左右社 2970円)を購入。その仕事の道を面白く辿る。何を作るかではなくてどう作るかが重要、という考え方に倣い、私もやり方を考え直してみよう、と自分の仕事のヒントをもらえた。
8月×日 飛行機で香川県へ飛ぶ。3泊して瀬戸内国際芸術祭に参加している島々をまわる。「瀬戸内国際芸術祭2025公式ガイドブック」(美術出版社 1650円)を読み込んで準備する。さまざまな展示を見るうち、海の社会的な役割を知る。海は、ときに難民の希望の道になり、あるいは病に対する差別が生まれたら隔離の道具にされ、そして豊かな資源や美味しいものも人に与えてきた。子どもは船や浜辺で海を喜んでいた。
8月×日 子どもは鬼太郎も好きなので、水木しげるの出身地、鳥取県の境港にも出かけた。「水木しげるロード」と呼ばれる道に、妖怪の像が並んでいる。境港観光協会著「水木しげるロード 全妖怪図鑑」(文藝春秋 1430円)によると、刊行時点で妖怪ブロンズ像は177体もあって、さらに発展を続けているようだ。
8月×日 仮面ライダー映画を見る。「仮面ライダーガヴSweet&Bitter」(東京ニュース通信社 2860円)。正直なところ、これまで仮面ライダーというものに興味が持てなかったのだが、あまりにも子どもがハマっているものだから、私もキャラクターなどをすっかり覚えてしまった。あと何年、私はこのような夏を過ごせるのだろうか。やがては自分のことばかりの日々に戻り、おばあさんになって、「自分の趣味とは違うものにまみれた夏もあったなあ」と思い出すのだろうか。