著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

南と華堂(なんとかどう)日野・南平 ウッディーな空間に新刊絵本が約1000冊

公開日: 更新日:

 閑静な住宅街に、オーラを放っていた。ウッドデッキが設けられた外側から、窓越しに本棚が見える。あ、ここだ。緑のドアを開け、「こんにちはー」。

 店内に入るや、1本の川と、その周辺が描かれた、細長い蛇腹状の絵が。

「すぐそこを流れる浅川。府中市内に住む村松昭さんって方が描いてらっしゃる鳥瞰図です」と、店主の井上優子さん。「描写、細かっ」と私。いきなり地図話に花が咲いたが、いやいや、ここは新刊絵本屋さんだ。

 1000冊ほどの絵本がゆったり並ぶ10坪ほどのウッディーな空間。風合いのいいテーブルと椅子も、この日「できるぞう できたぞう」原画展(8月25日まで)を開催していたギャラリースペースもある。

「ここ、実家の母に来てくださっていたヘルパーさんの家(の一部)なんです。『ウチどうぞ』と言ってくださり、2020年にオープン。最初は私物の古絵本を売って資金を作り、半年で新刊を仕入れるように。今年4月にリニューアルしました」と井上さんが言い、「私、ガッツな人だから」と笑う。

レオ・レオニや麻生知子など「絵がいいなと思う本を中心に」選書

 20代にアパレル会社で企画と店舗をつなぐ仕事をしたのが、「店舗空間づくりの重要さ」を知った事始め。30代で夫の転職に伴い浜松に転居。子どもを通わせた、音楽と絵本を組み合わせる独特の「音感教室」で、いろいろな絵本に出合い、ぞっこんに。そして「絵本とは」をぐいぐい勉強。50歳で東京に戻り、シェア書店出店を経て、開業に至ったそう。

 選書がふるっている。「絵がいいな、と思う作家さん中心」とのことで、面陳列に麻生知子の「なつやすみ」「りょこう」、小川糸が中国語を訳した「トウモロコシのおもいで」(早秋丸著)、レオ・レオニ作・谷川俊太郎訳の「フレデリック」。「バーニンガムのちいさいえほん」シリーズも「エーディトとエゴン・シーレ」も背表紙を見せている。

「実は趣味でミュージカルもジャズピアノもやりましたが、絵本屋は、全部の経験を生かせると思う」と井上さん。「経験を生かせる」のはお客さんもしかりで、「大人の絵本読み合い会」を定期開催。絵本は子どものものだけじゃない。そう気づいた大人たちが集う場にもなっている。

◆日野市南平6-17-10/京王線南平駅から徒歩4分/午前11時~午後5時、火・水・木曜休み(ほかに臨時休もあるので、SNS参照を)

ウチらしい本

「ぐるんぱのようちえん」西内ミナミ作、堀内誠一絵

「1966年の初版。子どもの頃に読み、大好きだったんですが、大人になって再読したとき、子どもの頃の断片的な記憶とは異なって、物語の構成や深さに改めて感動しました。『ぐるんぱ』はひとりぼっちの大きな象。ビスケット屋さんやピアノ工場などいろいろな場所で一生懸命に働きますが、失敗ばっかり。そんな経験が後にすごく生かされる。そんなお話。大人にも子どもにもおすすめしたいです」

(福音館書店 1320円)

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