「勝ちにいく覚悟」泉房穂著/講談社+α新書(選者:佐藤優)
これらの政策が連立政権で採用される可能性
「勝ちにいく覚悟」泉房穂著/講談社+α新書
7月20日に投開票された参院選兵庫選挙区(改選3)に無所属で立候補し、トップ当選を果たした泉房穂氏(所属会派は立憲)の政治哲学がよくわかる。
財政を肥大化させないで、大衆の生活水準を向上させる処方箋を泉氏は真剣に考えている。現下日本の国民生活は厳しい状況にある。
<30年前、税金と社会保険料の国民負担率は3割ほどでしたが、今や45%を超えています。さらに、家計支出における食費の支出の割合を示すエンゲル係数が、2024年に28.3%と1981年以来の高さになってしまった。もはや先進国で最悪レベルの家計状況だといえます。主食の米の価格がこの1年で2倍に跳ね上がり、米を買うことすらままならない異常事態です>
泉氏の指摘する通りだ。去年、評者はイスラエルのテルアヴィヴとロシアのモスクワに出張したが、平均的市民の生活水準は両都市の方が東京よりも高かった。
泉氏はこういうときにこそ「攻め」の政治が重要と説く。
<少子高齢化の時代に負担増は仕方がない、財政均衡を保つためにも国民負担増はやむを得ないなどという人もいますが、それは政治の放棄にほかなりません。今やるべきは、緊急に国民の負担を軽減し、給付などの生活支援を充実させ、国民が使えるお金を増やすことです。/国民は「政治は自分たちの方を向いている。大丈夫だ、私たちの社会は底が抜けたりしない」と思えてようやく安心してお金を使えるようになります。今、必要なのは「税金を下げ、社会保険料を下げ、光熱費や学費などの負担を下げ、物価高騰を抑制し、一方で給与や年金を増やす方向に政策を転換させますよ」という強いメッセージです。そして、それを実現していく政治家の決断力です>
自民党が「キャッチ・オール・パーティー(包括政党)」の機能を果たすことはもはやできない。今後の国政選挙では、どの政党も単独で過半数の議席を獲得できなくなり、比較第1党を中心とする連立政権が常態化すると思う。そういうときに泉氏が本書で展開している政策が連立政権で採用される可能性が十分あると評者は考える。 ★★★
(2025年8月19日脱稿)