(20)私に酒を教えてくれた人
私は、ここで、マティーニを覚えた。大泉さんはほかにも、ジントニックやモスコミュールなど、かけつけの1杯に最適のうまい1杯を、実に見事な手さばきで出してくれた。その間合い、ちょっとした言葉の掛け合い。酒場でどう過ごしたらいいのか、よくわかっていなかった30代の私に、酒を飲みに来ているんだから肩肘張らずにやればいいと、さりげなく教えてくれた。 最高の、オヤジだった。
センター街の「コレオス」の閉店をもって大泉さんは現場を退かれた。80歳だった。
引退後も、素敵なバーテンダーであり、オヤジだった。私の著書が新聞の書評で取り上げられたりすると、いの一番に電話をくださるのが大泉さんだった。
訃報に接した夜。関西からの帰りに渋谷へ寄った。「カプリス」のオーナーバーテンダーである福島さんは、大泉さんの右腕だった人だ。彼にまず、ジントニックをいただく。聞きましたよ、と声をかける。
亡くなってから2週間ほど経っていたから、彼は心の平衡を取り戻していて、いつものように、ゆるぎない技術でカクテルをつくり、当意即妙な会話で和ませてくれた。
次に、マティーニをいただく。直弟子が受け継ぐ大泉マティーニだ。
献杯。ありがとうございました。自然に、頭が下がった。
















