著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(20)私に酒を教えてくれた人

公開日: 更新日:

 私は、ここで、マティーニを覚えた。大泉さんはほかにも、ジントニックやモスコミュールなど、かけつけの1杯に最適のうまい1杯を、実に見事な手さばきで出してくれた。その間合い、ちょっとした言葉の掛け合い。酒場でどう過ごしたらいいのか、よくわかっていなかった30代の私に、酒を飲みに来ているんだから肩肘張らずにやればいいと、さりげなく教えてくれた。 最高の、オヤジだった。

 センター街の「コレオス」の閉店をもって大泉さんは現場を退かれた。80歳だった。

 引退後も、素敵なバーテンダーであり、オヤジだった。私の著書が新聞の書評で取り上げられたりすると、いの一番に電話をくださるのが大泉さんだった。

 訃報に接した夜。関西からの帰りに渋谷へ寄った。「カプリス」のオーナーバーテンダーである福島さんは、大泉さんの右腕だった人だ。彼にまず、ジントニックをいただく。聞きましたよ、と声をかける。

 亡くなってから2週間ほど経っていたから、彼は心の平衡を取り戻していて、いつものように、ゆるぎない技術でカクテルをつくり、当意即妙な会話で和ませてくれた。

 次に、マティーニをいただく。直弟子が受け継ぐ大泉マティーニだ。

 献杯。ありがとうございました。自然に、頭が下がった。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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