無実の罪で処刑された兄の遺骨を求める少女の旅路

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「霧のごとく」

 台湾映画と中国映画。人の外見はまあ同じだし、風景だってそう違わない。なのに最初の数分で「これ台湾映画だな」とわかる。なぜだろう。

 連休明けに封切りの「霧のごとく」はまさしくそんなひとつ。監督のチェン・ユーシュン(陳玉勲)は「1秒先の彼女」などラブコメの得意なCM出身の演出家だが、本作は一転して白色テロ時代の台湾の貧しい少女の物語だ。

 白色テロとは、第2次大戦後に共産党との闘争で大陸から台湾に逃げた国民党による現地での大粛清。共産主義者のほか日本統治期からの本省人(台湾人)にも嫌疑をかけて拷問処刑する時代が40年近くも続いたのが台湾現代史だ。そんな時代背景ゆえ、風景も人の身なりも古く貧しく、かつての監督作とは絵作りもテンポも大違い。無実の罪で処刑された兄の遺骨を求める少女の旅路が、切なさと小さな笑いを交えて描かれる。

 とはいえ白色テロの終焉から既に40年弱。いまではこの時代が背景の漫画やゲームまである。本作も巧みな劇伴であの時代に縁遠い世代を引き込む工夫に富む。ちなみに日本版では中国方言からの字幕(渡辺はな訳)がいい。貧しい少女に出くわした盗賊がいう。「金なんぞ水と同じ。今日は俺の元へ流れ着いても明日は他人の元だ」。そして「苦労人と見受けた。受け取れ」「俺の名は高金鐘。(義賊の)廖添丁二世だ。さらば」。

 孫康宜著「白色テロをくぐり抜けて」(三元社 2860円)は幼くして父が投獄された中国文学者の回想記。大陸出身の父と本省人の母はともに日本への留学が縁で結ばれたという。当時はエリートだが、戦後は父が投獄、母は裁縫教室を開いて3人の子育て。それらの苦労話が小さなエピソードを点描するかたちで並ぶ。流れる雲を描写するがごとき筆致に、大陸とは違う台湾の風を感じるのは気のせいだろうか。 

〈生井英考〉

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