コラムニスト小田嶋隆氏 「言論弾圧は自主規制から始まる」

公開日: 更新日:

 反知性主義という言葉が流行している。立憲主義を否定し、学者の声も黙殺した安倍首相に対して向けられたもので、社会学者の上野千鶴子・東大名誉教授は「立憲主義の危機だけではない。知性の危機、学問の危機、大学の危機だ」と訴えた。そこで話題なのが「超・反知性主義入門」(日経BP)の著者・小田嶋隆氏(58)だ。反知性主義なのは野蛮政権のトップだけではない。そういう政権を選んだ国民にも危険な兆候が広がりつつあるという。

――この本は小田嶋さんの連載コラムをまとめられたものですが、もうバサバサというか、日本人の反知性主義が「これでもか」と出てきますね。生贄を求める社会、絆思考の危うさ、言論の自殺幇助……。世の中、全体が思考停止というか、反知性主義に毒されたというか。

 言論の自殺幇助でいえば言論弾圧って、憲兵がやってきて、言論の自由を掲げる闘士をしょっぴくみたいなイメージがあるじゃないですか。でも、実際は違って、公安や警察が直接手を出すことなんてまずあり得ない。戦前もそうだったけど、自主規制なんですよ。このテーマを書くと編集長がいい顔しないよ、読者の抗議はがきが殺到するよって。こんなふうに外側からやんわりと圧力がかかって書きにくくなる。ある種、言論に対する民意が言論の自殺幇助になる。

――本の中には戦前の息苦しさを描いた「言論抑圧」(中公新書・将基面貴巳著)の引用が出てきます。〈いかなる官憲も、軍人も、私自身に向かって、この原稿が悪いとか、こういうことを書くなと命じ、または話してくれたこともない。すべてが雑誌記者もしくは新聞記者を通じての間接射撃であった〉という馬場恒吾氏の言葉です。この間接射撃をしている主体は国民なんですね?

 戦前の言論弾圧だって、そんなことを言うのは非国民だ、お国のためにならない、許すなって、そういう民衆がたくさんいたと思うし、今がまた、同じような社会になっていると思います。

――よく安倍政権の言論弾圧が話題になるけど、それをやらせているのは、国民であると?

 ユネスコの記憶遺産に南京大虐殺が登録された時、菅官房長官は分担金を減らすことを示唆しました。驚天動地の発言で、昔だったらクビが飛んでいると思う。虐殺した数についての議論はあってしかるべきだが、虐殺の事実そのものを否定したり、分担金を減らしてユネスコに圧力をかけるのは別次元の話でしょう。しかし、菅官房長官がああ言うのは、国民の方に『ユネスコはケシカラン』という応援の声があるのを感じたからだと思う。ああいう発言ができちゃう空気が、すでに存在しているんですよ。

■「政治家はタカをくくっているんです」

――戦前の「欲しがりません」みたいな国策標語も、むしろ民衆が率先したような気がします。

 標語にあおられて戦争が泥沼化したのではなく、民衆にこびるような標語が作られた。順序として国民の熱狂の方が先だったように思います。

――五輪招致の時も、賛成しないと「なんで水をかけるんだという空気がある」と言われてましたね。

 五輪招致に賛成ではないという国民が2、3割はいるんじゃないですか? でも少数派の意見は控えろみたいな。こういうのが言論の不自由の最初の兆候です。会議は全員一致、会社は全社一丸。これがよき社会の在り方であると。シラけるような行動はやめなさいって。

――そういうところ、本当にありますね。

 最初は招致活動に反対だったのが、始まっちゃうと、やるんだったら勝ちたいよね、となる。招致に成功すると、決まった以上、みんなで頑張ろうねとなる。戦争もそうなんです。誰も戦争なんかしたくないけど、始まったら、戦争反対の声はかき消されて、国策標語の世界になる。

――危ない国民性ですね。

 だから、政治家はタカをくくっているんですよ。反対運動が多くても断固として信念を貫き通せば、日本人の場合、賛成に転じると思っている。安保法制もそうだと思います。

――お上のやっていることだから、しょうがねえかと?

 主体性がないんです。サラリーマンもそうです。これはおかしいと思って会社批判をしながら、しかし、最後は社の方針だからとかいって、黙ってしまう。理屈じゃなくて、最後は「だっておまえ、日本人だろ」「だって、同じ社員だろ」ってのが殺し文句みたいになる。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新の政治・社会記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西勇輝は“天敵”岡田新体制に未練なし!史上初「阪神→巨人」FA移籍選手誕生カウントダウン

    西勇輝は“天敵”岡田新体制に未練なし!史上初「阪神→巨人」FA移籍選手誕生カウントダウン

  2. 2
    テレ朝・玉川徹氏は鎮火せず、NHK解説委員・岩田明子氏の時は…番組発言“炎上騒動”の大違い

    テレ朝・玉川徹氏は鎮火せず、NHK解説委員・岩田明子氏の時は…番組発言“炎上騒動”の大違い

  3. 3
    新庄日ハムの大黒柱・近藤健介 FA権行使濃厚も本命ロッテはお家騒動真っただ中

    新庄日ハムの大黒柱・近藤健介 FA権行使濃厚も本命ロッテはお家騒動真っただ中

  4. 4
    阪神・西勇輝は「性格に難あり」海外FA権取得で今オフ目玉と思いきや“不人気”の声

    阪神・西勇輝は「性格に難あり」海外FA権取得で今オフ目玉と思いきや“不人気”の声

  5. 5
    ホラン千秋と新井恵理那は局アナ試験“全落ち”…タレント→キャスター“逆パターン”の強み

    ホラン千秋と新井恵理那は局アナ試験“全落ち”…タレント→キャスター“逆パターン”の強み

  1. 6
    「河野vs萩生田」バトル勃発寸前!旧統一教会の解散請求命令めぐり“てんでに”思惑渦巻く

    「河野vs萩生田」バトル勃発寸前!旧統一教会の解散請求命令めぐり“てんでに”思惑渦巻く

  2. 7
    婚約中に殉職した米警官が「最高の遺産」を…ホームレスの人たちから広がった助け合いの輪

    婚約中に殉職した米警官が「最高の遺産」を…ホームレスの人たちから広がった助け合いの輪

  3. 8
    ソフトB藤本監督 “常勝球団”の新指揮官でV奪還ならずも意外に「高評価」のワケ

    ソフトB藤本監督 “常勝球団”の新指揮官でV奪還ならずも意外に「高評価」のワケ

  4. 9
    氷川きよし“事務所社長との確執”にうんざり?「退所&独立」報道に見るキーちゃんの決意

    氷川きよし“事務所社長との確執”にうんざり?「退所&独立」報道に見るキーちゃんの決意

  5. 10
    丘みどりディナーショー“Wブッキング中止”の背景と経緯 超老舗ホテルの杜撰すぎる対応

    丘みどりディナーショー“Wブッキング中止”の背景と経緯 超老舗ホテルの杜撰すぎる対応