著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

公開日: 更新日:

「グレタ・ニンプ」綿矢りさ著

 少し前の話になるが1月に芥川賞の発表があった。今回は鳥山まことさんの「時の家」、畠山丑雄さんの「叫び」のダブル受賞。おめでとうございます。

 突然だがこの記事を読んでる皆さんには印象に残っている芥川賞小説はあるだろうか。私が強烈に覚えているのは「蹴りたい背中」である。綿矢りささんが弱冠19歳で受賞した衝撃は当時凄かったし、20年以上前の受賞だが、いまだに最年少受賞記録は綿矢さんだ。だが彼女が本当に凄いのは、そこから何度も、何段階も進化し続けているところだと思う。今回は「また進化してる……」と思わされた本作を紹介したい。

 主人公の俊貴は控えめで笑顔が可愛い由依と結婚した。不妊治療を続けるもなかなか成果が出ず、クリニックに通うことをやめた2人。ところが諦めた直後に由依は自然妊娠で子どもを授かる。喜びたい俊貴だが妊娠が分かった瞬間「ヨウセイダーーーーーーーーーッッッ!」とX JAPANの紅ばりに叫ぶ由依、言動だけでなく見た目も激変、妊娠検査薬を頭部の左右に突き立て八つ墓村のようなフォルムになっている。「ウチの妻は急にどうしたんだ」と戸惑い始める俊貴。この2人とお腹の中の赤ちゃんの行く末を追っていく話だ。

 この小説、SNSでかなり話題になっている。というのも、ハイテンションなパートが多くあるのだが、それを表現するのにセリフ回しや比喩だけでなく「文字そのもの」を何倍も太くしたり、フォントも気合の入った筆文字やポップな字体に変化させる視覚的効果が組み込まれてるのだ。極太の文章がノンブル(各ページの下方に記載されてるページ番号)を突き抜けてる、ほかの小説ではお目にかかれない、痛快な読書である。

 ただ、こういう分かりやすい勢いや、演出だけでない部分の細かい笑わせ方も物凄くうまい。既に育児を始めている俊貴の姉夫婦が来宅した際、俊貴が義兄と目を合わすのだが、その視線だけでメッセージが伝わってくる場面はかなり笑った。そして笑いだけでなく、親になることの真剣さもしっかり伝わってくる。笑いがあるからこそ、シリアスパートにギャップがあり、より深く刺さるのだ。

 進化し続ける鬼才の現在地をぜひ確認してほしい。 (小学館 1870円)

【連載】書店員芸人カモシダせぶんの「いい本入ってますよ!」

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