秀山祭大歌舞伎 叔父が書いた“新作”を市川染五郎が演じる
古典を知り尽くした吉右衛門が書いたので、歌舞伎外の若い劇作家が書くものとは異なり、昔ながらの芝居の様式で書かれている。その意味でハデさがないが、その普通さが落ち着く。
桜姫と清玄伝説の物語で、85年の初演では吉右衛門が自分で演じた清玄と浪平の2役を、今回は甥の市川染五郎が演じた。それが、まるで最初から染五郎のために書かれたかのように、ぴったりなのには驚く。
染五郎は毎年この秀山祭に出て、初代の芸を当代の吉右衛門を通じて継承しようと努力している。しかし、叔父・甥とはいえ、容姿や雰囲気が異なるので、どこか無理している感じがある。それがこの「再桜遇清水」では生き生きと演じている。
徳川時代に書かれた古典を継承していくのは基本としても、やはり昔と今とでは劇場の運営方法も上演形態も違う。古典そのままでは長過ぎ、あるいは話が分かりにくいものもある。古典の題材と様式を現代風に再構築して提示する試みはもっとあっていい。
(作家・中川右介)