著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「パタリロ!」(既刊104巻)魔夜峰央作

公開日: 更新日:

「パタリロ!」(既刊104巻)魔夜峰央作

 頭のなかで「パパンがパン」とクックロビン音頭がときどき聞こえてくる。還暦まで半年に迫った今でもだ。

 高校2年のとき、まさかのアニメ化がなされた。忠実な世界観の再現、声優のマッチ度。マニアにとっては歓喜、随喜、滂沱(ぼうだ)の涙と鼻水であった。

 しかしマニアだけの世界なのに、当時高校の応援団員であった私は体育館の壇上でクックロビン音頭を踊ってしまい、全校生徒を静まり返らせてしまった。それほど好きなのだ。

 普通、漫画家の天才度は「画力」「物語力」「キャラクター力」の3つの要素で測られる。このうち1つでも抜きんでれば天才と呼ばれる。しかし魔夜峰央は3つどれもが飛び抜けており、だからこそ「パタリロ!」は読者を飽きさせず、1978年から半世紀近くも続くお化け連載になっているのである。

 この作品、信じられぬほどの魔夜峰央のレベルの高さによって日本社会に大きな役割を果たした。同性愛への偏見を、昭和のど真ん中においてさえ軽々と飛び越えてみせたのだ。

 画力で世間を黙らせた。ギャグを駆使した物語の質の高さで世間を黙らせた。主人公のパタリロだけでなくバンコランたち脇役の香り立つ中性キャラで世間を黙らせた。

 パタリロのある種の爬虫類のような外貌はのぺりとして性別を感じさせない。バンコランやマライヒの美しさと洗練にも性別を感じない。ボケ役であるタマネギ部隊には男を感じるが眼鏡を外すやじつは美少女ばりの美少年ばかりで、これもジェンダーニュートラルである。

 彼らが舞台を右へ左へと走りまわる「パタリロ!」ワールドは、獣の糞尿なみの異臭が漂う昭和混沌時代に、シャネルの香水をまいたように高貴で、黄金色に輝く豪華絢爛たる絵巻物であった。

 いまいちど単行本をめくってほしい。

 黄金色を基調としたマリネラ王国の描画は、まさにクリムトの世界である。声も動きもなかったクリムトを、魔夜峰央はパタリロを使って「動くクリムト」「しゃべるクリムト」にしてわれわれ読者に提示した。そう考えると魔夜峰央の異能がわかるであろう。

 魔夜はただの漫画家ではない。思想家であり芸術家である。その思想性と芸術性によって「パタリロ!」は永遠に後世に残っていく。

(白泉社 472円~)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    《タニマチの同伴女性の太ももを触ったバカ》を2発殴打…元横綱照ノ富士に大甘処分のウラ側

  2. 2

    日本ハムは「自前球場」で過去最高益!潤沢資金で球界ワーストの“渋チン球団”から大変貌

  3. 3

    高市首相が天皇皇后のお望みに背を向けてまで「愛子天皇待望論」に反対する内情

  4. 4

    年内休養の小泉今日子に「思想強すぎ」のヤジ相次ぐもファンは平静 武道館での“憲法9条騒動”も通常運転の範囲内

  5. 5

    新庄監督にガッカリ…敗戦後の「看過できない発言」に、日本ハム低迷の一因がわかる気がした

  1. 6

    『SHOGUN 将軍』シーズン2撮影中の榎木孝明さん「世界的な時代劇映画のプロデュースに関わりたい」

  2. 7

    横綱・豊昇龍が味わう「屈辱の極み」…大の里・安青錦休場の5月場所すら期待されないトホホ

  3. 8

    和久田麻由子アナがかわいそう…元NHKエースアナを次々使い潰す日テレの困った“体質”

  4. 9

    あの細木数子をメロメロにさせて手玉に…キックボクサー魔裟斗のシタタカさ

  5. 10

    細木数子と闘った作家・溝口敦氏は『地獄に堕ちるわよ』をどう見たか? “女ヤクザ”の手口と正体