「ジャンヌ・ダルクの物語」キャスリン・ハリソン著 北代美和子訳

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「ジャンヌ・ダルクの物語」キャスリン・ハリソン著 北代美和子訳

 1424年夏、フランス北東部にある小村ドンレミに暮らす12歳の少女が、「正しく振る舞い、教会に通え」という天からの声を耳にした。突然の出来事に少女は怯えたが「声」はその後もしばしば訪れ、この天啓に従うべく少女は神への献身を誓う。

 やがて声はその少女ジャンヌに、シャルル王太子をランスへ連れて行き、王位に就けよと告げ、ジャンヌは勇躍、イングランドに包囲されていたオルレアンを解放すべく旅立つ--。

 救国の英雄として広く名の知られたジャンヌ・ダルクは、以後さまざまな形でその生涯が語り継がれてきた。作家では、シェークスピア、ボルテール、シラー、トウェイン、ショー、ブレヒト、アヌイ……。彼女を主人公にした映画も近年に至るまで多数上映されている。

 本書は、同時代の裁判記録や証言録に加えてさまざまなフィクションも取り上げ、フェミニズム的な視点も踏まえて多様な角度から成るナラティブを織り上げたもの。

 ジャンヌは、見事オルレアンを解放したものの、その後イングランド軍に捕らわれた上、異端審問裁判にかけられて火刑に処される。その間のジャンヌと裁判官たちの記録が残されているが、そこで問題にされたのは、彼女が本当に神の声を聞いたのか、なぜ男装をしたのか、男性ばかりの軍隊にあって本当に純潔を保てたのかということだ。

 ジャンヌは魔女だという噂が広まっていて、彼女の聞いた声は神ではなく悪魔であり、女が男の服を着るということ自体が異端の証しであるというのが裁判官たちの主張だ。また、ジャンヌの処女性こそがその聖性の源であることから、その欺瞞を暴こうとしたのだ。そうした形で当時の女性蔑視の視線が激しく注がれたのだが、ジャンヌは一貫してそれらの非難を一蹴する。

 その揺るぎない信念は、600年を経た現在でも深く人々の心に刺さり、今後も語り継がれていくことだろう。 〈狸〉

(白水社 4950円)

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