みんなちがってみんないい さまざまな人生本特集

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「生きてりゃいいさ」花房観音著

「五月病に注意」といわれるこの時期。新しい環境への期待が心理的負担になるのだという。今回は、過度な期待から解放してくれる4冊を紹介。人それぞれの人生があるのだ。



「生きてりゃいいさ」花房観音著

「時代おくれ」などのヒット曲を歌った河島英五は、大阪・生野区で5人きょうだいの長男として生まれた。周囲には離婚などの問題を抱える家庭が多く、英五の父親も実の両親に育てられなかったため、子どもの叱り方が分からなかったという。

 英五が入学した花園小学校では、下校時に校内放送でドボルザークの「家路」が流された。病気がちで、「人はなぜ生まれて、どこへゆくのだろう」と考えていた英五に、この曲は「初めて永遠なるものを意識させた」音楽となった。そして、こういう人の心を揺り動かすものをこの世に残したいと考えるようになった。

 中学3年のとき、授業で課題を時間前に終了した英五は、教師に「校庭で空でも眺めとけ」と言われた。静まりかえった校庭で空を眺めていたとき、「流れる雲」という歌が生まれた。

 心にしみる歌を残した河島英五の伝記。

(西日本出版社 1650円)

「学歴狂の詩」佐川恭一著

「学歴狂の詩」佐川恭一著

 著者は、母子家庭で育ち、高卒だが大卒をぶち抜いて出世した父と、短大卒の母の間に生まれた。父は「大学なんて出ても社会では役に立たん」と言ったが、著者は母の希望で大学に進んだ。中学時代は成績がよく、「天才」と呼ばれていた。

 海外留学なども考えていたのだが、高校に入ると、成績は104人中39位。クラスには「マジモンの天才」濱慎平がいた。濱は最初の中間テストでトップになり、ずっとその座を譲ることはなかった。濱が独自の解法で数学の問題を解くと、数学教師がそれを理解できないこともあった。恐ろしいことに、濱自身は数学は苦手と考えていて、得意なのは日本史と世界史だった。物理や数学をやって疲れると、日本史や世界史をやって「休む」のである。

 京大卒のエリートが書いた学歴ノンフィクション。

(集英社 1540円)

「わたしは楳図かずお」楳図かずお、石田汗太著

「わたしは楳図かずお」楳図かずお、石田汗太著

 マンガ家の楳図かずおの母の生まれ故郷である奈良県吉野郡野迫川村はひどい山奥だった。生後7カ月のとき、母が紙と鉛筆を持たせて「マルはこう描くんだよ」と○を描いてみせたら、かずおが○を描いたので母は驚いた。5歳のとき、家を訪ねてきた村長の息子の似顔絵を描いたら、すぐわかるほどよく描けていたという。

 幼いころ住んでいた曽爾村には不気味な伝説があり、父はそれを子守歌代わりにかずおに聞かせた。それは「お亀池のへび女」という伝説だった。伊勢国から太良路に嫁にきたお亀は、亀山の池で水垢離をし、子どもが生まれると実家に戻った。乳を飲ませるためにお亀の夫が子どもを池に連れていくと、お亀が大蛇に化けて出てきたという。

 蛇女のマンガで有名になった楳図かずおのその後を予想させるエピソード満載の自伝。

(中央公論新社 2530円)

「出獄記」山本譲司著

「出獄記」山本譲司著

 衆議院議員だった山本は、国から支給された政策秘書の給与を事務所運営費などに流用して詐欺罪に問われ、懲役1年6月の実刑判決を受けた。2002年8月、仮出獄となり、栃木県の黒羽刑務所から出所。その後、福祉の現場に携わり、障害のある受刑者などの社会復帰支援に取り組んでいる。

 だが、統計によると受刑者の55%以上が刑務所に再入所している。入出所を繰り返し、人生の最期を獄中で迎える者も多い。帰る場所がなく、迎えてくれる家族もいないからだ。更生保護法人やNPO法人を紹介しても、本人が生活していた地域から離れていて、希望にあわないこともある。知的障害や精神障害のある者もいて、出所後の生活が困難なのだ。

 受刑経験のある元衆院議員が見た刑務所の中の重い現実。

(ポプラ社 2090円)

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