役所広司主演映画「すばらしき世界」が描き出す社会の陥穽

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「世の中の関心事の枠外にある、誰からも見逃されているようなテーマ」などと、マスコミ取材に西川監督はコメントしているが、主人公三上の置かれている状況は、誰もがいつ落ちるかわからない世の中の陥穽(かんせい)である。

 晴れてシャバに戻ったものの、どれだけ仕事を探してもなしのつぶて、三上はボロアパートでひとりカップ麺の毎日で、近所のスーパーでは万引の嫌疑をかけられてしまう。監督が撮影にあたって元受刑者らにリサーチしたところ、「この社会ではなかなかやり直しが利かない」と口をそろえ、原作の時代より現在のほうがずっとシビアだと実感したそうだ。それでも「死ぬわけにもいかない」と悪戦苦闘を続ける男には、人とのつながり、ぬくもりを感じられる瞬間も巡ってきて一筋縄ではいかない。

役所広司がムショ帰りの初老ヤクザを好演

 秀逸なのが、前科10犯という三上のキャラクターだ。街で若者に恐喝されているシニアの男を見かけると、割って入って守る。激高し、暴れると歯止めが利かなくなるが、それなりの筋や道理があってこそだったりする。見て見ぬふりの社会とは真逆のうえ、やりすぎてしまい、また窮地に陥るが、それでもまた体を張っていく。本作での役所広司は「無法松の一生」での三船敏郎、「男はつらいよ」の渥美清のような、アウトローなのだけれども人情家なのだ。ようやくパートタイムの居場所を見つけた介護施設でも、軽い障害のあるスタッフへのいじめがあって拳を固めてしまうのだが……。劇中、元いた場所に戻ってしまいそうになるそんな三上を制して、旧知の親分の妻マス子(キムラ緑子)はこう言う。

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