役所広司主演映画「すばらしき世界」が描き出す社会の陥穽

公開日: 更新日:

「世の中の関心事の枠外にある、誰からも見逃されているようなテーマ」などと、マスコミ取材に西川監督はコメントしているが、主人公三上の置かれている状況は、誰もがいつ落ちるかわからない世の中の陥穽(かんせい)である。

 晴れてシャバに戻ったものの、どれだけ仕事を探してもなしのつぶて、三上はボロアパートでひとりカップ麺の毎日で、近所のスーパーでは万引の嫌疑をかけられてしまう。監督が撮影にあたって元受刑者らにリサーチしたところ、「この社会ではなかなかやり直しが利かない」と口をそろえ、原作の時代より現在のほうがずっとシビアだと実感したそうだ。それでも「死ぬわけにもいかない」と悪戦苦闘を続ける男には、人とのつながり、ぬくもりを感じられる瞬間も巡ってきて一筋縄ではいかない。

役所広司がムショ帰りの初老ヤクザを好演

 秀逸なのが、前科10犯という三上のキャラクターだ。街で若者に恐喝されているシニアの男を見かけると、割って入って守る。激高し、暴れると歯止めが利かなくなるが、それなりの筋や道理があってこそだったりする。見て見ぬふりの社会とは真逆のうえ、やりすぎてしまい、また窮地に陥るが、それでもまた体を張っていく。本作での役所広司は「無法松の一生」での三船敏郎、「男はつらいよ」の渥美清のような、アウトローなのだけれども人情家なのだ。ようやくパートタイムの居場所を見つけた介護施設でも、軽い障害のあるスタッフへのいじめがあって拳を固めてしまうのだが……。劇中、元いた場所に戻ってしまいそうになるそんな三上を制して、旧知の親分の妻マス子(キムラ緑子)はこう言う。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」