五木ひろしの光と影<15>山口洋子は「今までになかった曲にしたい」と訴えた
「そんな曲あるかね」
平尾が諦めたように言うと「だから、あなたに頼んでるんじゃない」と洋子はたきつけるように言った。平尾はここで、ようやく洋子の本心が読めた。従来の作曲家にこういった柔軟性を求めるのは不可能なのだ。
少年時代から現代音楽の権威とも言うべき伯父(平尾貴四男)の影響を受けながら、ロカビリー歌手としてロックンロールにはまり、洋楽の専門家となり、ジャズにも造詣が深く、唱歌にも通じ、民謡も演歌も都々逸もとりあえず一通りかじってきた音楽全般のエキスパート、加えて遊び心もある若き平尾昌晃なら、このリクエストに応じることができる--山口洋子はおそらく、そう考えたのだろうと生前の平尾昌晃は踏んでいた。
「まあ、そんなに買いかぶられても困るけど、そう思われて悪い気はしなかった」と晩年の平尾は相好を崩した。