著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「デビルマン」(全4巻)永井豪作

公開日: 更新日:

「デビルマン」(全4巻)永井豪作

 アニメ版が大ヒットしたので原作がかすんでしまっている漫画は多い。この作品もそのひとつだとされる。

 アニメは腹に響くOPソングのイメージどおりの内容であり、主役のデビルマンは《正義のヒーロー》と歌われた。

 これに対して原作のほうは地味だった。とにかく暗い。絵柄もストーリーもとことん暗い。派手なアニメ版に押されてイメージに残りにくい。

 ところが人の心というのは不思議なものだ。漫画版はなぜか5000万部も売れている。海外でも売れているのは、ひとつは《デビル》であり《デーモン》だからだろう。日本にはデビルもデーモンもいない。いるのは鬼だ。もうひとつの理由は日本においては1ステージ上の年齢層の購買だ。アニメ版はより多くのファンを求め視聴者層を小学生まで下げてしまった。結果、ずしりと重い原作者永井豪の魂胆は薄められ、登場するのが《デビル》や《デーモン》でなくとも、その名前を《マジンガー》や《ライガー》に変えても、あるいは《キューティーハニー》や《けっこう仮面》に変えてさえ成立しうる作品に堕してしまった──これは年長読者たちの偽らざる心情であった。

 原作とアニメにここまで違いが出たのは、もともと原作がスタートではないからである。

 他のアニメの多くは「漫画作品のアニメ化」というかたちで始まっている。しかしこの「デビルマン」に関しては、漫画とアニメ、両者が同時並行して週刊少年マガジンとテレビアニメとしてスタートしたものだ。

 原作はあくまで永井の作品である。

 しかしアニメの脚本はデビルマンという造形と物語全体の流れだけは同じにしてあったが、完全に永井から離れ、辻真先によって創作されたものだった。そして別物になった。

 どちらが上とか下とかそれはない。どちらも傑作だ。しかしペンにインクを浸しては必死にゴリゴリと描いた永井執念の漫画は、“正義のヒーロー”デビルマンの陽性の活躍ではなく、人類の終末へ向けた黙示録的なものだった。

 ギャグを得意とした永井豪が漫画家として本当に描きたかったテーマ、ためにためたテーマをぶつけたのが「デビルマン」だった。漫画全体が暗いのはその原点からして当然だった。

(講談社 943円~)

【連載】名作マンガ 白熱講義

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    無謀な戦争の末路(1)イギリスに「東のスターリングラード」と呼ばれた激戦

  3. 3

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  4. 4

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  5. 5

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  1. 6

    古書 音羽館(西荻窪)「本屋は街の縮図。誰が入ってきても何か引っ掛かる本がある店を」

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  4. 9

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  5. 10

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「風、薫る」“シマケン”はブーイングも…Aぇ! Group佐野晶哉には「オファー増」の追い風

  2. 2

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  3. 3

    “世界ランク1位”の座を捨てて甲子園へ 享栄・上江滝拓未「将来はプロかバスの運転手」

  4. 4

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  5. 5

    りくりゅうペア大逆転金メダルを呼んだ“かかあ天下” 木原龍一はリンク内外で三浦璃来を持ち上げていた

  1. 6

    りくりゅう“ジュニア”に早くも金メダル期待 一般家庭の子にはない「血」と「資金」の強み

  2. 7

    高市政権が国民資産「強奪」計画! 現預金1100兆円を狙い撃ち、放漫財政のツケを庶民のフトコロに押しつけ

  3. 8

    ビートたけし&島田洋七「ほとんどリタイア」の現在地…「おお元気か?」と連絡し酒を酌み交わす

  4. 9

    日本ハムは「レイエス流出阻止」が最優先課題 優勝争い&新庄監督の去就以上に重大なワケ

  5. 10

    警察は田岡邸を没収し、兵庫県や神戸市の持ち物にしたらどうだ