「デビルマン」(全4巻)永井豪作
「デビルマン」(全4巻)永井豪作
アニメ版が大ヒットしたので原作がかすんでしまっている漫画は多い。この作品もそのひとつだとされる。
アニメは腹に響くOPソングのイメージどおりの内容であり、主役のデビルマンは《正義のヒーロー》と歌われた。
これに対して原作のほうは地味だった。とにかく暗い。絵柄もストーリーもとことん暗い。派手なアニメ版に押されてイメージに残りにくい。
ところが人の心というのは不思議なものだ。漫画版はなぜか5000万部も売れている。海外でも売れているのは、ひとつは《デビル》であり《デーモン》だからだろう。日本にはデビルもデーモンもいない。いるのは鬼だ。もうひとつの理由は日本においては1ステージ上の年齢層の購買だ。アニメ版はより多くのファンを求め視聴者層を小学生まで下げてしまった。結果、ずしりと重い原作者永井豪の魂胆は薄められ、登場するのが《デビル》や《デーモン》でなくとも、その名前を《マジンガー》や《ライガー》に変えても、あるいは《キューティーハニー》や《けっこう仮面》に変えてさえ成立しうる作品に堕してしまった──これは年長読者たちの偽らざる心情であった。
原作とアニメにここまで違いが出たのは、もともと原作がスタートではないからである。
他のアニメの多くは「漫画作品のアニメ化」というかたちで始まっている。しかしこの「デビルマン」に関しては、漫画とアニメ、両者が同時並行して週刊少年マガジンとテレビアニメとしてスタートしたものだ。
原作はあくまで永井の作品である。
しかしアニメの脚本はデビルマンという造形と物語全体の流れだけは同じにしてあったが、完全に永井から離れ、辻真先によって創作されたものだった。そして別物になった。
どちらが上とか下とかそれはない。どちらも傑作だ。しかしペンにインクを浸しては必死にゴリゴリと描いた永井執念の漫画は、“正義のヒーロー”デビルマンの陽性の活躍ではなく、人類の終末へ向けた黙示録的なものだった。
ギャグを得意とした永井豪が漫画家として本当に描きたかったテーマ、ためにためたテーマをぶつけたのが「デビルマン」だった。漫画全体が暗いのはその原点からして当然だった。
(講談社 943円~)