森暢平
著者のコラム一覧
森暢平成城大学文芸学部教授

元毎日新聞記者。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)、『皇后四代の歴史──昭憲皇太后から美智子皇后まで』(吉川弘文館、共著)、『「地域」から見える天皇制』(吉田書店、共著)などがある。

「眞子さま問題」とは、いったい何だったのか

公開日: 更新日:

 小室眞子さん(30)が、新婚の夫・圭さん(30)と米国へ旅立ったのは2021年11月14日のこと。2人が交際を開始したのは、国際基督教大学(ICU)在学中の12年の夏からなので、9年越しの恋を実らせた。

 2人が結婚に至るまで、さまざまな議論が起こった。いったい、「眞子さま問題」とは何だったのだろうか。

 17年5月16日、2人の結婚はNHKが夜7時のニュースでスクープし明らかになった。その後9月3日に婚約が内定し、そろっての記者会見が行われた。当初、結婚式は18年11月4日に挙行されるはずだった。

 ところが、『週刊女性』(17年12月26日号)が、小室さんの母親の金銭トラブルを報じたことで状況は一変した。

 小室さんは10歳のとき実父を亡くし、母親にはその後、再婚を前提に交際した男性(以下、Aさん)がいた。このAさんから、交際中に渡した409万3000円の返済を求められたのである。それも直接ではなく、週刊誌を通じた請求であった。報道を受けて宮内庁は18年2月6日、結婚の延期を発表する。

 このころ、眞子さんと小室さんは結婚後の生活設計を考えていた。小室さんは当時、都内の奥野総合法律事務所で法務助手(パラリーガル)として勤務していた。年収がそう高いわけではない。小室さんは将来の留学を考えていたが、当初の予定ではしばらく日本で働く考えだった。しかし、小室さんが早期に留学して米国での弁護士資格を取得するという「積極策」に出ると、2人は相談して決める。

 結婚延期の際に発表された、眞子さんの「お気持ち文書」には次のようにあった。

「今、私たちは、結婚という人生の節目をより良い形で迎えたいと考えております。(中略)結婚後の準備に充分な時間をかけて、できるところまで深めていきたいと思っております」

 いま読み返すと、眞子さんたちの決意が現れている。この時点で、留学、弁護士資格取得、米国定住という生活設計がなされていることが、この文書から見て取れる。

説明不足が批判を加速

 小室さんは結婚延期を発表した半年後の18年8月7日、ニューヨーク市にあるフォーダム大学法科大学院(ロースクール)に留学するため渡米。当時これについてはっきりした説明がなかったため、眞子さんの気持ちを考えない自分勝手な行動と、小室さんは批判された。

 火に油を注いだのは、秋篠宮さまの発言である。誕生日(18年11月30日)の記者会見で、秋篠宮さまは次のように述べた。

「多くの人がそのこと(結婚)を納得し喜んでくれる状況、そういう状況にならなければ、私たちはいわゆる婚約に当たる納采の儀というのを行うことはできません」

 結婚は認めるが、世論から批判がある現状では「納采の儀」は行わないーー。秋篠宮さまの一貫した考えである。

 小室さんは19年1月22日、金銭トラブルの経緯を説明する文書を公表した。そこには「多くの報道において借金トラブルが残っているとされていますが(中略)母も私も元婚約者の方(Aさん)の支援については解決済みの事柄であると理解してまいりました」とあった。

 この文書が誤解を広げることになる。「解決済み」と書いた小室さんの意図は、これまでは「解決済み」と理解してきたが、Aさんからの指摘もあるので、今後はどれが借金でどれが援助なのか、Aさんと協議するというものだった。しかし、言葉が足りなかった。

 世間は、小室さんは大学進学などでAさんから支援を受けたのに、感謝の気持ちが足りないと受け止めた。

 小室さん側とAさんとの話し合いは19年5月から開始された。小室さん側の代理人は上芝直史弁護士、Aさんの代理人は『週刊現代』記者で言い分を自由に発信する一方、上芝弁護士には守秘義務があり、口を閉ざした。こうした非対称の関係が、小室さん批判の風潮を加速させた。

 Aさんは19年11月、「もはや金銭の請求はしないし、そのための話し合いは不要なのでやめたい」と伝える。小室さん側は「金銭トラブルは解決したと考えていいのか」と問うと、Aさんは「解決はしていない」と答えた。交渉は暗礁に乗り上げた。

 そして、『週刊現代』(20年12月5日号)が交渉の内幕を暴露し、双方は完全に決裂する。

眞子さんによる強い批判

 小室さんはここで、方針を変更する。解決金支払いでの決着を決意するのである。その転換にあたり、小室さんは経緯を詳細に記した説明文書を用意した。総ページ数28頁の長大な「小室文書」が発表される(21年4月8日)。自らの立場を法律的に説明する文書であった。ここでもまた、小室さんは「自分の言い分ばかり」と批判される。

 解決金支払い方針が「小室文書」の3日後に発表されたことも世論の誤解を受けた。小室文書には、解決金は支払わないこれまでの方針のみが記された。それが3日後に急に覆されたと誤解されたのである。

 このころ、宮内庁は「2021年秋」の結婚の方針を決定し、それに向けて準備を始める。批判は強かったものの、眞子さんの心労は激しく、これ以上の先延ばしは不可能だと判断された。小室さんは21年5月にロースクールを卒業し、ニューヨーク市の法律事務所で9月から働くことも決まっていた。生活基盤は整うと見込まれたのである。秋篠宮さまも、納采の儀など関連儀式を行わずに結婚を進めると決断した。

 21年夏、宮内庁記者クラブの記者の一部が取材に乗り出し、それを見た週刊誌は秋の結婚をほのめかす記事を書き始める。この段階で、メディアの言説は小室さん批判ばかりであったが、宮内庁は正面突破で乗り切ろうとした。

 21年9月1日、「読売新聞」が2人が近く結婚するというスクープを報じる。ここから「眞子さま問題」に関する議論は最高潮に達する。2人が決めたことだから認めるほかはないという擁護論から、眞子さんは皇族の立場を忘れているという批判論まで、喧々諤々の議論が続いた。

 21年10月1日、宮内庁は2人の婚姻届が10月26日に提出されると発表する。同時に、長引く批判のなかで眞子さんが複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)であると公表された。

 結婚の日の当日、眞子さんと小室さんは記者会見をした。回答の多くは文書でなされた。一部質問について、眞子さんは「この質問は、誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねない」と強く批判した。

 米国出発の2日前(11月12日)、小室さんとAさんは金銭トラブルについて初めて直接の話し合いの場を持った。Aさんに409万3000円の解決金を支払うことで、問題は一応の決着を見た。

■若い皇族の結婚への影響

 米国到着後、眞子さんは心のバランスを回復するために、静かな生活を送るだろう。しかし、その後も、内外のメディアが私生活を隠し撮りするなど、2人を追い続けている。

 思うに、「眞子さま問題」の混迷は、さまざまなコミュニケーション不全が招いたものだと思う。「小室さん母子とAさん」、「小室さんと世間」、「宮内庁と社会」とのコミュニケーション……。さまざまなレベルで、対話が成り立たなかった。皇族に過剰な公性(おおやけせい)を求める風潮のなかで、眞子さんを批判する人たちと、眞子さんとの行き違いも広がった。

 今回の問題の最大の影響は、悠仁さまをはじめとする若い皇族への結婚だろう。皇族と結婚すれば、過去を洗いざらい暴かれ、プライバシーやさまざまな自由を放棄しなければならないと明白になった。そうしたリスクを犯してまで、皇族と結婚しようと思う若者が現れるのか、とても心配になる。

「眞子さま問題」は、小室さんや母親に起因する属人的な問題では決してない。社会の変化のなかで皇室への期待が上がり、そのことと現実の皇室とのギャップが生んだ問題だ。今後の皇族の結婚でも、同じようなことが起きる可能性は十分考えられる。

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