食べる喜びを失った時、高齢者の生活は大きく変わる
在宅で療養を始めた患者さんに、「良かったことは何ですか」とお聞きすると、「好きな時に好きなものを食べられること」と答える方が少なくありません。食事は、単なる栄養補給ではありません。心身の健康を保つうえで欠かせない大切な営みです。
乳がん末期の80代の女性患者さんがいらっしゃいました。
ある日、手首と腰のレントゲン撮影のため整形外科を受診したところ、過去の腰椎圧迫骨折に伴うと考えられる強い痛みがあり、その痛みが食欲低下の大きな要因になっていると考えられました。食欲は日に日に落ち、やがてほとんど食事を取れない状態になっていきました。
同居する娘さんは、少しでも食べてもらおうと、患者さんの好きな和菓子を買ってきたり、うどんを作ったりしました。しかし和菓子には手を付けず、うどんもだしをすする程度。そうした状態が続き、体重はわずか1週間で3.2キロも減少してしまいました。
この患者さんの場合、腰の痛みが非常に強く、その苦痛が食欲だけでなく、生きる気力そのものを奪っているようでした。やがて女性は、「もう家にはいられない」「何もしたくない」「家族にも迷惑をかけたくない」と弱気な言葉を口にするようになります。その後、ご本人とご家族で話し合い、療養場所を見直した結果、施設へ入居する選択をされました。


















