「アイ・ワズ・ア・ストレンジャー」シリア内戦に遭遇した人々の苦境と流転を描く
「アイ・ワズ・ア・ストレンジャー」
2010年に「アラブの春」ことジャスミン革命が中東・北アフリカに野火のごとく広まったとき、ここには飛び火しないといわれたのがシリア。
実のところ「飛び火」はしたのだが、独裁政権がたちまち倒れて民主化するという図にはならず、アサド政権の民衆弾圧と宗派対立、さらにIS(イスラム国)がなだれ込むという、今世紀最悪とまでいわれた悲惨な内戦に至った。
今週末封切りの「アイ・ワズ・ア・ストレンジャー」はこのシリア内戦に遭遇した人々の苦境と流転を描く。爆撃で一瞬にして家族を失った女性医師、政府軍で反乱鎮圧に従事しながら疑いを抱き始める兵士、金で難民に脱出路を世話するあこぎな密航業者、難民を満載したゴムボートを救助するギリシャの沿岸警備隊員。これらの役にヤスミン・アル・マスリー、オマール・シー、ヤヤ・マヘイニらフランスやシリアやパレスチナ出身の俳優たちが配され、さながらシリア内戦でつながる群像劇の趣だ。
監督・脚本・製作のブラント・アンダーセンはハリウッドでやり手のプロデューサーにして人権活動家。この映画では商業性と社会意識が巧みにより合わされ、観客を難民の体験に同化させる。娯楽性のある純文学を近ごろ「アップマーケット文学」なんていうが、この映画にもちょっと似たにおいがある。
シリア情勢は中東でもことのほか入り組んだ経緯が特徴。イスラム教諸派が並立する上に自由シリア軍、IS、ヌスラ戦線、シャーム自由人運動、クルド人勢力、さらにイランの民兵やレバノンのヒズボラなど外国の勢力まで入り乱れて敵味方に分かれた。高岡豊著「シリア紛争と民兵」(晃洋書房 3520円)はこの複雑怪奇な状況を丁寧に観察整理し、門外漢にも理解しやすい。中東情勢では専門家までが党派性をあらわにすることも少なくないだけに貴重だ。
〈生井英考〉



















