五十嵐貴久氏が小説「コンクールシェフ」に託した思い…「若い料理人が1人でも増えたら」

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 高岡早紀主演ドラマ「リカ」や「パパとムスメ」シリーズなど、ドラマ化作の多い小説家、五十嵐貴久氏が料理バトル小説「コンクールシェフ!」(講談社)を出版。編集者時代には「料理の鉄人」の書籍も担当。放映から30年、満を持して小説にする理由とは。

 ◇  ◇  ◇

 ──編集者から作家に転身した五十嵐氏はかつておニャン子クラブ写真集や男闘呼組などアイドル本や、テレビムックなどを担当していた。

「当時はライターも自分でやっていました。自分の企画なので自分で書く方が早いし、ライターさんにうまく伝えられずに直す手間を考えたら、時間的にも気分的にも楽だったんです。アイドルになりきって『美奈代今日もがんばった! 美奈代がんばる?』って書いていましたよ、こんなオッサンが(笑)。おかげで今も筆が進まないことはないです」

 ──「料理の鉄人」本は1冊目が13万部、その後も続編が発売された。

「番組には出版各社から引き合いが来ていましたが他社はレシピ本の提案。私は『スポーツドキュメント、勝負事としてとらえたい。戦うにあたっての料理人一人一人の背景を描いた人間ドラマとして読ませたい』とプレゼンをして企画が通った。レシピは料理を再現し、撮影すると手間がかかるし、材料費も高額。レシピを載せればレシピ使用料も発生するから採算が合わないとも考えたんです。月に2回収録に立ち会い、料理の鉄人たちにこの時どう思ったのかと詳細にインタビューする日々が続きました」

 ──ナマの鉄人たちはどうだったのか。

「番組が高視聴率だったおかげで最初の本が13万部ぐらい売れて、初めて鉄人の一人に『売れてるんだってね』って声をかけられたのが印象深かったですね。それまで視界に入っていなかった男から、丁寧に扱われる人になった。裏表含めて勝負の世界でした」

若い料理人が1人でも増えたら

 ──番組監修の服部幸應氏には印象深い思い出があるという。

「当時は『このままだと日本の料理は衰退する』とお話しされていました。バブル後、若手の料理人が育っていない。このままだと栄養としての食も心を満たす食も何もかも雑になってしまうと危機感をもって語っていらした。のちに服部さんが広めた“食育”ですね。鉄人を通して服部先生は“食への関心”を高めたかったんですよね」

 ──なぜそんなに料理人が育たないと?

「今、10年続く店は3割もない。料理の世界はバブルが崩壊してスターが育たなくなったのと、上が詰まっている。道場六三郎さんも90代で現役ですし、キャリアもブランド力も若手じゃ歯が立たない。料理は結局は素材。評価を上げるには原価率が上がるから、良心的な料理人ほど店が潰れる。だから料理人になりたい若者が育たない、ひいては食全体への関心が乏しくなるという悪循環が生じる。ましてや今、コロナ禍でどこも経営難です。こんな時だからこそ、若い料理人に活躍して欲しいと思い、若手料理人のバトルを題材にしました」

 ──今作のために料理教室にも通った。

「料理のウンチクについては詳しいと自負していましたが、包丁は持ったことがないに等しいので。食材をどの角度で見て包丁を入れるか、無意識にやっていることこそ文章にすると生き生きしてくるような気がします」

 ──新作のおすすめポイントを。

「仕事も体力もそこそこ、あとはうまいものを食べたい、そんな気持ちの中高年の皆さんに食を通してエネルギーを伝えられたら。そして若い料理人が1人でも増えたらいいですね」

(聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ)

▽五十嵐貴久(いがらし・たかひさ) 1961年、東京都生まれ。出版社に勤務しながら2001年に第18回サントリーミステリー大賞の優秀作品賞。同年「リカ」で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞。同作は30万部の大ヒットでドラマ、映画化。

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