プチ鹿島が川口浩探検隊を“探検”した理由「メディアの熱狂の時代を不透明決着で終わらせてはいけない」

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プチ鹿島(時事芸人、映画監督)

 昭和のテレビ界を一世風靡した「水曜スペシャル『川口浩探検シリーズ』」(テレビ朝日系=1978~85年)。ヤラセとのそしりを受けながら、当時の少年たちにロマンを与えた伝説の番組の「謎」を追う前人未到の旅に出たのは、新聞14紙読み比べで知られる時事芸人だ。このたび、冒険譚をまとめたルポ「ヤラセと情熱─川口浩探検隊の『真実』─」(双葉社)を出版。テレビというジャングルに迷い込み、艱難辛苦の果てに何を見たのか──。

  ◇  ◇  ◇

 ──今なぜ、川口浩探検隊に注目したのですか。

 僕はずっとテレビっ子で、特に探検シリーズは夢中で見ていました。放送日は親に「勉強はどうしたの?」と言われないよう早めに宿題を片づけ、熱心にテレビの前に座っていたものです。

 ──世界中の秘境を踏破し、伝説の怪物を捜索。僕もワクワクしながら見ていた世代ですが、「ついに怪物発見?」と思ったら、ホンの一瞬だけ映って終わり。「不透明決着」の回も多かった。

 次第に子ども同士でも「あんなのはインチキだ」と冷笑するようになり、1984年には嘉門達夫さんが曲まで出されて。

 ──「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」ですね。

 潮目が変わりましたね。探検隊がネタの対象にされ、当時は複雑な心境でした。周りが半笑いを浮かべるほど真剣に見て。世間との温度差に半信半疑の気持ちを抱くほど、探検隊は妖しい魅力を放ち、夢中になってしまう。大人になっても探検隊は人生の謎で「ヤラセ」とさげすまれていたけど、実はテレビ史に功績を残す偉大な番組だったのではないかと常々考えていました。隊員だったスタッフも、まだテレビ界に残っているなら、あの番組がテレビマン人生にどんな影響を与えているのか。それを聞きたくて、元探検隊を追う探検に出発したのです。

 ──出版まで足かけ8年。長い道のりでした。

 まず雑誌連載から始め、1年後にADだった元隊員と奇跡的にアポが取れたんです。その後は直に別の元隊員を紹介してもらう「ともだちの輪」システムで、多くの証言を得られました。

■命がけのエンタメ作り

 ──舞台裏の強烈エピソードが満載です。

 一章ごとにテレビ史的スクープがあると自負しています。面白いのは映画「カメラを止めるな!」のようにワンカットの長回しにこだわったシーン。まず草むらや木の上から現れるヘビを演出のため、配置する。そこは「仕込み」ですが、撮影中に危険な障害物は排除しなくちゃいけない。そうはいってもロケ地はジャングルの奥地。毒ヘビとかウジャウジャいて、それらを捕まえて駆除するのがADの仕事で安全を確かめてカメラを回すと、仕込んだヘビが木から落ちてくるという。

 ──倒錯しています。

 毒ヘビを捕まえるって本当の冒険じゃないですか。元隊員たちは命の危険を感じた目に何度も遭ったというんです。

 ──ドキュメンタリー番組の素材になり得るプロセスを「エンタメだから」とあっさり捨てる割り切り方が潔い。

 実際、他局のドキュメント班とは現場が重なっています。彼らは少数民族の住む山奥に3日間かけて歩いて会いに行く。そのプロセスと説得力がドキュメントたらしめる大事な要素ですが、探検隊はエンタメ。それでは面白くならない。スタッフは現地の人の案内で少数民族に会いに行き、山から下りてきてと交渉する。相手も文明をだんだんと理解しており、お金や食料がもらえると知っている。最後には「ワニと闘ったらいくら?」「木々を飛び回ったらいくら?」とオプションを提案してきたというんです。それが少年時代に衝撃を受けた「謎の原始猿人バーゴン」の正体でした。

 ──ハチャメチャです。

 インドネシアのとある村に行ったら、「日本人が来たのは太平洋戦争以来だ」と言われたそうです。ちゃんと秘境に行くからこその逸話です。それだけで1本のドキュメント番組になりそうだけど、探検隊は「そうですか」と淡々とロケを始める。元隊員は誰もが「ドキュメンタリーとは思っていなかった」と口を揃えます。エンタメ作りにプライドがあったと。

 ──出版直後、動画配信サービス「TELASA」が探検シリーズの独占配信を開始しました。

 追加取材のため、何度か出版を延期し、ようやく世に出した途端ですよ。来てますね。

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