移民とニッポン
「ニッポンの移民」是川夕著
右派の女性首相が誕生。ニッポンの排外主義はさらに強まるのか?
◇
「ニッポンの移民」是川夕著
今夏の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党の躍進。排外主義の高まりを懸念させるできごとだったが、そこで飛び交うガイジン嫌いのSNSや偏向報道に対して「断片的な事実ないしはイメージをパッチワークのようにつなぎ合わせたものに過ぎ」ない、とバッサリ切って捨てるのが本書。著者は「国立社会保障・人口問題研究所」の国際関係部長。つまり官製シンクタンクの専門家だ。それだけに初歩的な話題や状況論にとどまらず、入管法や技能実習制度などを子細に検討して、その可否や特徴などを明らかにする。
特に日本の法制度には「埋め込まれたリベラリズム」、つまりあらかじめ意図したわけではない不作為の対移民寛容策があるのだという指摘は貴重だろう。公式に移民を受け入れておらず「労働移民」を中心としながらも、永住への道も閉ざさないという日本のあいまいな対応は上手に使うと大いに機能するのではと思わされる。
本書によれば地方圏で移民受け入れへの意欲の高まりがあるという。日本社会の足腰は東京や大都会ではなく、地方こそが支える。それを考えると地方の地域社会に移民が安心して溶け込める態勢と空気をつくるのが肝心だろう。 (筑摩書房 1012円)
「移民が増えて、いいことって何だろう?」佐藤友則著
「移民が増えて、いいことって何だろう?」佐藤友則著
1988年当時、日本に住む移民の数は94万余だった。それが昨年末時点では376万9000人弱。およそ40年足らずのうちに4倍にまで増えたのだ。こうなるとすぐに出るのが「治安の悪化」「学校が荒れる」「日本文化が壊れる」など、根拠の定かでない不安の声。それをSNSがさらに増幅する。
その解毒を試みるのが本書。たとえば「治安の悪化」を不安がる声には観光客を含む外国人と定住外国人の犯罪件数のグラフを示し、後者は年々減っていることを実証する。加えて漠然とした先入観などで感じる「体感不安」の存在を認めたうえで思い込みのバイアスを指摘する。「移民に仕事を奪われる」という不安に対しては、工場や農漁場などでの仕事と会社・役所勤めなどのホワイトカラーの仕事のそれぞれについての実情をていねいに説明し、これまで外国人受け入れに積極的でなかった日本社会では少しでも積極措置をとっただけで逆に目立つという逆説的な現象があることを示す。
著者は信州大の「グローバル化推進センター」に在籍する日本語教育の専門家。長年の経験からくる話題が豊富だ。 (明石書店 2200円)
「ブリティッシュ・ドリーム」D・グッドハート著 浅沼道子訳
「ブリティッシュ・ドリーム」D・グッドハート著 浅沼道子訳
グローバル化の時期に始まったヨーロッパの移民政策が失敗に終わったことは現状を見れば明らか。3Kの仕事を委ねる底辺労働者として受け入れ始めたものの、差別にさらされた移民は社会に融和できないまま代を重ね、他方で白人貧困層も不満をつのらせた。これがブレグジットの背景になった。
本書の著者はこの状態を憂慮し、イギリスの移民政策の失敗を強く批判する保守系シンクタンク研究者。しかしゴリゴリの排斥論者ではない。著者の立場は「元々国民ではなかった者」を無制限に受け入れる万人主義と、慣習や言語や伝統に根差した部族的国家主義のどちらでもない「中道」だ。
問題の多くは受け入れる側の政策や制度の不備にある。特にイギリスでは同じ業界でも雇用者間で労働者の訓練で協力する素地がなく、建設現場でも医療業界でも第三世界出身の熟練者に仕事を奪われる傾向が増大しているという。低賃金で意欲の高い外国人労働力に雇用者の側も安易に依存するのも変わらない。
著者は日本の厳しい移民政策に好感を抱いているらしく、「日本の大規模移住への抵抗」は「思慮に欠けるものではない」と評価している。 (花伝社 3850円)



















