ダースレイダー「沖縄から日本の民主社会を問う」 映画「シン・ちむどんどん」に込めた思い

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「『辺野古ならいい』と考えるなら、それはもう差別です」

 ──ご自身は選挙中、SNS上に飛び交ったデマを問題視していますね。

 自公政権が推した佐喜真淳さんを応援する人の間で、現職の玉城デニーさんが勝つと「沖縄が中国に支配される」との発信が目立ち、特に県外からの投稿が多かった。前任の翁長雄志知事の時代から流布されていて、選挙時に2人の在任期間は計8年。中国が本気なら、沖縄はすでに乗っ取られていてもおかしくないのに、そうなっていない。中国に不安や恐怖を抱く人は大勢いますが、その気持ちをなぜ、沖縄の選挙に、しかも非自公候補が優勢だと単純に結び付けてしまうのか。そこが気になりました。

 ──本来なら「保守」こそ、沖縄が抱える基地などの問題を「わが事」として捉えてほしいです。

 愛国心から「日本の国土である尖閣諸島や竹島は大事」と言う人は多い。ならば、どうして辺野古は大事じゃないんだろう。辺野古はもともと日本の土地です。別に米国が占領して返していない土地ではない。辺野古の基地問題とは、日本の土地と海を米国に差し出す話ですよね。それを容認する保守のロジックが理解できません。もし「沖縄ならいい」と考えているなら、それはもう差別です。

 ──そうした論理に基づく負の感情を直接、ブツけられた「オール沖縄会議」共同代表の高里鈴代さんの体験談には胸を締め付けられました。

 ショックでした。台湾有事を巡る「南西諸島」という表現も違和感を覚えます。南西諸島ってどこ? 沖縄じゃね? それって日本じゃん。じゃあ「日本有事」として向き合うべきなのに、沖縄を切り離そうとする。

 ──これまでも沖縄の人々は辺野古の新基地建設にハッキリ「ノー」を突きつけてきました。

 県知事選などで明確に反対する候補が勝利し、4年前の県民投票では投票所に行った人の7割が反対しました。それでも沖縄の民意は一切、国の対応に反映されません。民主主義が機能していないのです。僕は以前から「日本は民主社会ではない」と語ってきましたが、その証拠が沖縄には厳然としてあります。

■「知ることの大事さ」を病人になって気付いた

 ──日本のトップはG7広島サミットで民主主義陣営のリーダー然として振る舞っていました。

「民主主義vs権威主義」の対立構造や「民主制の危機」が叫ばれる時代ですが、まず日本は民主社会を一度実現してから、その議論に向き合った方がいい。日本はまだ民主社会に慣れていません。戦後、そこそこ良い車を連合国からもらったのに、まだ運転免許を取っていないようなもの。それでも、沖縄の人たちは民主主義を信じており、主権者として自分たちが中心の民主社会を実現しようとする気持ちを強く持っています。どんなに自分たちの声が届かず、国に裏切られても、民主主義に懸けている。諦めや苛立ちの気持ちがあるからこそ、歌って踊って選挙活動を楽しむ知恵もある。だから、沖縄の選挙は熱いんです。

 ──劇中で沖縄国際大の前泊博盛教授が語る内容も衝撃的です。基地問題を知っているつもりで、まだまだ知らないことだらけだと痛感しました。

 米国主権の「米主主義」の実態ですよね。沖縄を題材にするにあたり、「初心者として一から学ぶ」スタンスで当事者に会うことを心がけました。自分たちは何も知らず何も体験できていないという前提がある。おかげで、多くの方から貴重な知識を得られました。沖縄から日本の民主社会を問う。そのスタート地点に立つための作品になったと自負しています。

 ──知らないことを前提に知ることが大事という考えは、ご自身の闘病体験も影響しているのですか。

 33歳で脳梗塞で倒れる前は、自分の体のことを何も知りませんでした。肩こりや疲労などの異変を感じても、ライブをやるとアドレナリンが出て元気になる。だから、自分は仕事人間で音楽に愛されていると勝手に思い込んでいました。都合のいい言い訳ですよね。見たくない現実から、目をそらしていたんです。

 ──その意識はデマに踊らされる人々にも共通しているように思います。

 不都合なことに背を向けてしまうのは、不安のなせる業。自分もそうだったから分かります。何も知らないから不安になる。僕はしっかり診療を受け、自分に何が起きているかを知って不安から逃れることができた。不安の解消に必要なのは知識です。素人判断はダメ。専門家や当事者から学ぶしかない。自分が病人になることで、その大事さに気付かされました。沖縄の実態を何も知らず冷笑する人に「知る」大事さを実感して欲しいし、選挙や政治に興味がない人にこそ作品を見てもらいたい。選挙は自分たちの外の世界の出来事と捉えられがちですが、日常と地続き。別の「世界線」から出現するわけではない。それこそ祭りと一緒。終わればまた日常が続いていく。僕はよく「社会派ラッパー」と呼ばれますが、「社会派って何? 社会に属していない人っているの?」と思う。どんな日常を過ごしていても、誰もが社会の影響からは逃れられません。社会問題とは全て自分たち日常の問題なんです。

 ──じゃあ、ダースさんは社会派ではない?

「日常派ラッパー」です。

(聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)

▽1977年、仏パリ生まれ。東大中退。2000年にラッパーとして本格デビュー。10年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明。以降、眼帯をトレードマークに。17年には腎臓の数値も悪化し、医師から告げられた「余命5年」を乗り越え、22年にライブ「満期5年」を開催した。「The Bassons」のボーカルの他、多彩な言論人との配信番組に多数出演。著書に「武器としてのヒップホップ」(幻冬舎)など。

◆シン・ちむどんどん
 今月11日(金)から那覇・桜坂劇場で先行公開&全世界配信(配信チケットは〈ロフトプロジェクト〉で販売中)
 19日(土)から東京=ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタ、京都=京都みなみ会館でロードショー

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