日本映画に多大な影響を与えたその生涯をたどる「淀川長治『映画の伝道師』と日本のモダン」北村洋著
「淀川長治『映画の伝道師』と日本のモダン」北村洋著
「では、また来週お会いしましょうね。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」
50代以上の人なら、この「サヨナラおじさん」こと淀川長治のフレーズは懐かしいに違いない。「日曜洋画劇場」の解説者として32年間、毎週ブラウン管からお茶の間へ映画の魅力を届け続けてきた淀川が亡くなって30年近くが経つ。淀川については自身が著したものも含めて数多くの著書が刊行されているが、「多くは個人的な回想や感想に終始し、八九年間の生涯を体系的に分析した仕事は見当たらな」く、映画・メディアなどの研究書に淀川の名前が登場することは驚くほど少ない。本書は、その生涯を同時代の資料を用いて客観的にたどり直し、併せて日本の映画文化に与えた多大な影響を明らかにしていく。
淀川は神戸の下町で料亭と置き屋を営む、両親共に映画好きという「モダン」な家庭に生まれた。幼い頃から映画に親しんできた淀川は、16歳のときに映画の世界で生きようと決心する。中学卒業後は映画雑誌に複数のペンネーム(女性名もあり)で投稿を重ね、熱烈な映画愛好者として名を馳せた。やがてユナイテッド・アーチスツ社やセントラル映画社で映画の営業・宣伝に携わり特異な才能を開花していく。戦後は雑誌「映画の友」の編集長として、映画を一部知識人や文化人ではなく大衆のものとする活動に尽力する。そうした淀川の映画に関する該博な知識と映画の伝道師としての情熱は斯界では知られていた。全国的にその存在を知らしめたのはテレビドラマ「ララミー牧場」の解説者を務めてからで、やがて「日曜洋画劇場」へつながっていく。
本書にはテレビではうかがい知れない日本映画や「カサブランカ」などの名作に対する辛辣な批判も引かれている。そこには、淀川独特の価値観があり、文化としての映画が社会にどう貢献すべきかという強い信念も見え、「知られざる淀川長治」が浮き彫りにされていくことだろう。 〈狸〉
(名古屋大学出版会 4950円)



















