孤独な男と強く結ばれた老犬と女の逃避行「海霧─ジリ─」馳星周著

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「海霧─ジリ─」馳星周著

 母の死をきっかけに故郷を飛び出し、函館に流れ着いた神野大樹は、暴力団の岡村興業の宮嶋が仕切る海鼠の密漁で暮らしを立てていた。相棒は、ボーダーコリーの老犬ジリ。知り合いの漁師の飼い犬だったのだが、彼が亡くなり保健所に連れて行かれるところを引き取って、以来密漁の見張り役として欠かせない片腕となっていたのだ。

 ところが、日本が原発処理水の放出を発表したことで、中国が日本産の水産物を全面禁輸し、今まで高値で売れていた海鼠がさばけなくなってしまった。焦った宮嶋らは、大樹を詐欺の仲間に誘うが、ジリの体調が心配な大樹は彼らから距離を取ろうとする。しかし、宮嶋の情婦だった霧子が、ジリに興味を持ったことから大樹と霧子の距離が近づき、思ってもみなかった逃避行が始まる……。

 本書は、著者の作家生活30周年の節目に発表されたクライムサスペンス小説。海霧(ジリ)とは、「海上に立つ霧」のこと。人の命が一瞬に失われることを痛感している主人公が、海霧の名の老犬と霧の名を持つ女と共に、今この瞬間に生きようとする姿を感動的に描いている。

(KADOKAWA 2310円)

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