寺島しのぶの歌舞伎初舞台「声のトーン」には違和感も…出演する昼の部はほぼ満席

公開日: 更新日:

『男をつらいよ』を思い浮かべるような演出

 山田洋次はいつまで渥美清の幻影を追い求めているのだろう。誰もが『男はつらいよ』を思い浮かべるように脚色・演出しているが、あれは渥美清という天才がいたから成り立つもので、獅童は資質が異なる。

 その獅童は夜の部では打って変わって、古典『双蝶々曲輪日記』の「角力場」で、濡髪を堂々と演じている。まさに錦絵から出てきたような怪異な容貌で、座っているだけで、絶対的に強い力士であると示す。

 坂東巳之助が緩急自在に、与五郎と放駒長吉の二役を演じ分ける。獅童の濡髪との対話による対決のシーンでは、心理状態の「変化」を見せた。

『水戸黄門』は、坂東彌十郎がタイトルロール。たしかに、彌十郎主演でなにかできないだろうかと考えたとき、その風貌から水戸黄門を思いつくのは自然だ。

「次はこうなるだろう」と思う通りに物語は進み、よく言えば「安心して見ていられる」が、テレビドラマレベルで、役者たちはうまいが、台本というか企画が貧困すぎる。

 彌十郎の水戸黄門は、人としての大きさ、懐の深さを感じせ、高笑いも劇場中に響き、適役。物語の軸となるのは、坂東新悟が演じる、没落した家を再建したくて高利貸しをしている娘。新悟のクールな雰囲気が、暗い面がありながら聡明な娘に適している。

 他に歌昇、福之助、歌之助、虎之介、男寅、廣太郎ら若手が生き生きと、そして堂々と演じており、世代交代を感じさせた。

 中村亀鶴はうまいのに、なかなか出演機会がないが、ここでは悪役で存在感を示した。もっと出てほしい。

(作家・中川右介)

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  5. 5

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  1. 6

    「好感度ギャップ」がアダとなった永野芽郁、国分太一、チョコプラ松尾…“いい人”ほど何かを起こした時は激しく燃え上がる

  2. 7

    衆院定数削減の効果はせいぜい50億円…「そんなことより」自民党の内部留保210億円の衝撃!

  3. 8

    『サン!シャイン』終了は佐々木恭子アナにも責任が…フジ騒動で株を上げた大ベテランが“不評”のワケ

  4. 9

    ウエルシアとツルハが経営統合…親会社イオンの狙いは“グローバルドラッグチェーン”の実現か?

  5. 10

    今井達也の希望をクリアするメジャー5球団の名前は…大谷ドジャースは真っ先に“対象外"