葉加瀬太郎さん「釣りもステージも同じ感覚“鯛ラバ”のおかげでリラックスして演奏できる」
脳みそがスパークし脳汁が出る
はじめの頃はスタッフに仕掛けを作ってあげたり、船の後方で酒を飲んで騒いでいるだけでした。それが途中から自分が一番鯛ラバの魅力にとりつかれ、今では釣りに集中して船の上では酒も飲まなくなるぐらい、ハマってます。年間の公演スケジュールに合わせ、移動日に釣行の予定を立てます。昨年は年間50釣行でした。ハナダイ、キダイ、コチ、ブリ、ハタ、クエがかかりますが、それがおいしい魚であろうが、高級魚であろうが、ボクにとってはすべて「外道」です。当然、マダイしかカウントしません。昨年は251匹の釣果でした。
マダイ釣りにしか分からない、上品で力強い引きが魅力です。どんなに小さくても「コンコンコン」という3段引きがたまりません。その瞬間、脳汁が出ます。はたから見れば、静かで地味な釣りです。よく「曲作りとか考えているのですか」と聞かれますが、そんな余裕はありません。さっきはルアーを海底に落として何巻き目で当たりがあったか、底から10メートルを集中的に攻め続け、飽きてきたらまた底まで落とし、魚にルアーをもう1回見せる。その繰り返しです。
自分が海の底を潜っている姿をイメージし、自らルアーにならないとダメなんです。スーッと上がっていたルアーがフワッフワッとなる瞬間があり、「マダイがルアーに気付いたな」と気配が感じられる。周囲をすべて海に囲まれ、リラックスした状況で脳みそだけがスパークします。その気持ち良さがたまりません。
コンサート会場で舞台から客席を見渡すと真っ暗で緊張感に包まれ、ドキドキハラハラして怖くなります。釣りをしながら同じ感覚になることが、何度もありました。バイオリンの弓が釣り竿に代わっただけで、近い感覚です。一日釣りをしてボウズになる恐怖と比べると、ステージの方がまだ安心感があります。お客さんから拍手をもらえるからです。釣りにハマったおかげで、楽な気持ちでステージに上がれるようになりました。 (構成=滝口豊/日刊ゲンダイ)
▽葉加瀬太郎(はかせ・たろう) 1968年、大阪府出身。今年、デビュー35周年を迎えた。バイオリニスト、作曲家、音楽プロデューサー。映画やドラマ、ニュース、バラエティー番組のテーマソングを手がけ、450曲以上を作曲している。