【八月の杜】東京大空襲で記憶を失った老女 自分探しの旅
本作のテーマは「文化の保存をめぐる現代の戦争」だ
1945年3月10日、東京大空襲によって約10万人が死亡した。軍国主義で暴走する国が無責任に引き起こした戦争によって殺された犠牲者だ。
劇中、資料館に掲示された「3月10日 午前0時08分」という文字、死んだ人たちが川底まで折り重なっていたという証言にはっとさせられた。高市早苗が戦前回帰の軍国主義を標榜し、国民が彼女を妄信するなか、戦争の悲惨さをあらためて認識させてくれる作品だ。
人物の配置が興味深い。文は空襲によって失った両親と記憶を追い求める。佳奈は祖父が残した古いホテルを維持しようとして闘っている。2人の女はともに歴史を守るため苦心している。そこに狂言回しのように出てくるのが悪徳不動産業者だ。文と佳奈が大切にしている場所を再開発によって破壊しようとしている。本作のテーマを文化の保存をめぐる現代の戦争と表現してもいいだろう。
ラストシーンは感動的だ。泣きの映画が嫌いな筆者も目がうるうるしてしまった。
メガホンを取った岩本崇穂監督はこう述べている。
「東京大空襲という出来事は、決して遠い過去ではなく、 今もなお当時を生きた人々の記憶の中に静かに残り続けています。わずかな記憶を手がかりに原点を探し続ける姿を通して、失われたものとどう向き合い、どう生きていくのかを描きました。観る人それぞれの中にある記憶や大切な存在を、そっと呼び起こす作品になれば幸いです」
烏丸せつこは1955年生まれの71歳。自分が「誰なのかを知りたい」と悩む女性を淡々と、静かに演じきった。本作出演に際し、こんな句を読んでいる。
「空蝉や 火伏せの杜に 茜射す」
(配給=T-artist/ミカタ・エンタテインメント)
(文=森田健司)



















