「海の底に雨は降らない」上村裕香著|奪われた人生を自分の言葉で取り戻す
「海の底に雨は降らない」上村裕香著
母の難病が判明したのは、光莉が9歳のときだった。室内で転倒を繰り返し、入浴や排泄の介助まで必要になると、父は失踪。施設を拒む母をほぼ一人で支えた光莉は通信制高校を選び、就職も断念した。10年に及ぶ介護の末、母は首つり自殺を図る。その場にいた光莉は自殺ほう助の疑いで逮捕され、懲役2年、執行猶予4年の判決を受けた。
拘置支所を出た20歳の光莉は叔母に引き取られて上京。介護施設でボランティアとして働き、社会復帰を目指す。ある日、編集者・佐々木から、人生を小説にしてほしいと依頼される。光莉は数年前、ヘルパー代欲しさに応募した文学新人賞で佳作となり、佐々木はその応募名を覚えていたのだ。同賞出身の売れっ子作家・日比谷に書き方を教わり、執筆に挑む。
ところが前科が知られると、利用者の家族から「殺人犯に親の命を預けられるか」と抗議され、得た居場所も失ってしまう。ネットでは「母を殺した娘」とする虚実ないまぜの動画が拡散し、世間は好き勝手に光莉の人生を語る。一方、光莉は母の最期の言葉すら思い出せず、自分の物語を書き切れない。生き別れた父を捜して過去をたどる中、彼女は何を取り戻すのか……。
ヤングケアラーの現実と、自分の人生を誰の言葉で生きるのかを問う再生の物語。重い主題を、当事者たちのユーモアあふれる会話が和らげる。 (幻冬舎 1870円)



















