ニコール・キッドマン『ベイビーガール』 客席を圧倒するM女の喘ぎ声

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女性は男たちの知らないところで禁断の快楽を求めている

 筆者は夕刊紙の記者として、さまざまなタイプの女性を取材した。その過程で分かったのは、程度の差はあるが女性の90%がマゾヒストという現実だ。M性が特に強い女性たちからは、夫や恋人と性的な嗜好が合わず不満を抱えているとの声を聞いた。

 ある人妻は、男に売り買いされることでM女の快楽が得られるとの理由から、フーゾクでバイトしていると打ち明けてくれた。30代の独身OLは、妻子持ちの男にSMプレーを仕込まれた末に別れた。美人なので男たちから声をかけられ3人と交際したが、「みんなノーマルだったのでがっかり。すぐに自然消滅した」と言って舌をペロリと出した。筆者はまたも「女とは何ぞや?」と頭を抱えてしまった。

 熟年カップルに詳しい女性ノンフィクション作家が50代夫婦の離婚トラブルについて書いたリポートが面白かった。50代半ばの夫が同い年の妻から「離婚したい」と切り出された。彼は思い直すよう説得したが、妻は「別れる」の一点張り。最後に「別れないでくれ」と土下座したら、妻はこう宣言した。

「離婚したくないなら条件がある。私をハプニングバーに連れてって」

 彼は妻を伴ってハプバーに出かけ、初対面の男性を交えて3Pに及んだ。妻は満足した。以来、夫婦仲は円満となり、今も2カ月に一度のハプバー通いを続けている。

 要するに妻は長年にわたってアブノーマルなセックスを求めていたが、夫はいたって普通だった。それが不満で、あるとき我慢の限界に達したわけだ。例のノンフィクション作家は筆者にこう話してくれた。

「夫婦円満を貫きたいなら、わが子に絶対知られたくないようなセックスをしたほうがいい」

 こうした実話はほんの氷山の一角だ。あまりエッチな話を書くと本作の宣伝部からお叱りを受けそうなのでこれくらいにしておくが、男たちの知らないところで女性は禁断の快楽を求めている。これが現実だ。

 だからロミーは若きインターンに飼い慣らされ、M女プレーにどっぷりとはまりこんだ。夫ジェイコブに「あなたは真の私を知らない」と言い、「あなたではオーガズムに達しない。あなたではイケない」と夫から逃れようとする。ところがジェイコブは「女の“マゾ性”は男の妄想。作り話だ」と否定する。夫婦は快楽に対する認識で大きなすれ違いを抱えているわけだ。

 ジェイコブは舞台演出家だ。人間の心の闇の部分を探求するプロが妻がマゾの性癖に支配されていることに気づかず、そればかりか一方的に否定するのだから、あなたは大丈夫ですか? と皮肉のひとつも言いたくなる。というか、この「ベイビーガール」の脚本はジェイコブの能力に冷笑を浴びせているという風にも解釈できるのだ。

 それにしてもニコール・キッドマンはすごい。1967年生まれだから、本作が米国で公開された昨年は57歳。アラシックスの肉体を惜しげもなく披露した。床にうつ伏せになり、サミュエルによって下腹部を刺激されるときの反応は、まるで野獣のよがり声だ。勇気ある演技と、ただただ感服するばかりである。

 キッドマンの激越な悦びの表現に、観客は女の業の深さを見出だすのか、それとも人間の自然の姿として肯定的に受け止めるのか。本作の評価によって、その人のエロティシズムに対する許容力を推し量ることができそうだ。(配給:ハピネットファントム・スタジオ)

(文=森田健司)

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