岸惠子が80歳で書いた「性愛」小説を読み返してみた
「侵入してきた九鬼兼太を受け入れながらも激痛が走った。固く閉じたオブジェの扉は開くことができないでただ裂けた、ように笙子(しょうこ)は感じた。身を反らせながら発した自分の叫び声に自分で傷つき、蒼ざめていった。この世の果てのような暗がりのなかで笙子はもがいた」
岸恵子が80歳の時、小説「わりなき恋」(幻冬舎)を上梓した。主人公の伊奈笙子69歳、九鬼58歳。
笙子は十数年ぶりの「性愛」で、自分の体が、「かつて、性の悦びが五感の細部まで沁みとおり、湿った体で呻き声を必死に抑えながら男を逆上させた笙子はもういなかった」と知り茫然とする。笙子は覚悟を決めて婦人科に行き、「干上がってしまった部屋の壁を、柔らかくする薬」をもらう。
妻子ある年下の男との「夕暮れ時の煌めき」と、別れ。岸は「実体験」にヒントを得たとエッセーに書いている。「プラハの春」について語り合ったのが2人の出会いのきっかけだった。


















